薄桜鬼〜地球儀の廻り〜最終章より

再会 ページ23

フワッ、とした温かいものに飛び込み、私は恐る恐る両目を開いた。

？？「A・・！」

貴女「えぇ！？」

目を開くと、頭上から懐かしい声が聞こえた。
六年間、ずっと思い続けてきた一人の男の声だ。
慌てて顔を上げると、そこには紫の瞳の優しい笑みが飛び込んでくる。

貴女「ト・・・シ・・！？」

一瞬我が目を疑った。
もう夢のように思えていたトシが目の前にいる。
髪は六年前と違い“歳之”のような短さになって、服装はハイカラな洋装だ。
落ち着いた黒に、菊があしらわれた襟。
見た事のないトシの姿に、ついつい見入ってしまった。

トシ「よう、久しぶりだなA。」

口元を吊り上げ、笑みを深めて言うトシに私はハッとした。
その瞬間、堰を切ったように涙が頬を伝う。

貴女「トシっ！！」

トシの身体に手を回して私は抱きついた。
あやすようにトシは背を摩るが、それが余計に嬉しくて涙が溢れた。

貴女「なんで・・、どうして？」

泣きながら、何故、私がここに戻ってこれたのかを問う。
トシは私を抱きしめながらその場に座ると、地面に置いてあった何かに触れた。

トシ「直してみたんだ、地球儀を。」

貴女「！！」

それは伊那さんが壊してしまった、あの地球儀だ。
割れてしまったヒビはクッキリとついているが、ボンドの様なものでくっつけてある。
金属の部分も、曲がってしまった後を残しながら元の形を留めていた。

土方「直したはいいが、使い方がわからなくてな。
何年かは持て余していたんだ。」

トシは安座し、その間に私を座らせながら優しく涙を拭ってくれる。
潤んだ目でトシを見上げて、再び『何故』と問う。

トシ「伊那の奴がここに来てな。
文句は言ってたが、使い方を教えてくれたんだよ。」

驚きから声を失った。
伊那さんは異国に嫁いだものと思っていたんだから。
それに、春なのにまだ肌寒いここは・・

貴女「北海道だよね・・？」

ソッと空を見上げると、薄いピンクの花びらが舞う。
私の住んでいるところは、もう葉桜だったが、北海道はまだこれからが本番だ。

トシ「まぁ、何があったかは一つずつ教えてやるよ。」

小さく微笑むとトシは、まだ咲ききらぬ桜の下へ私をいざなった。

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