Temps ページ20
「じゃあ、Aちゃんの将来が決まったんやね」
「そうだな」
小さな茶会は、小さな円形テーブルで行われていた。私を囲むように『なずな』と『しゅう』、『みか』が座っている。
「彼女をどうしようが君の勝手なのだから、別に報告に来なくたっていいのだけれど」
「いや、一応な。A、色んな人に気に入られてるから報告してまわってる」
「……にしても、大事な演技の前に不穏なことを言わないでくれるかい」
「それはごめん！」
私はいつの間にか、お別れの時期を決められちゃったみたい。この先何年あるかも分からないけれど、すぐじゃないだけまだまし、なのかしら。
彼らにとっては長い期間かも知れないけれど、私……人形にとっては一瞬のこと。分かってはいたけれど、少し寂しいわね。
「とは言っても、お別れはもう少し早まるからな。何かの節目にアイツに預ける」
「随分はっきりと言うものだね」
「俺が悲しくなるから」
『なずな』は私を見て少しだけ笑った。
「……今すぐにさようなら、という訳でもないのだろう？大袈裟なのだよ」
「うっ」
「じゃあ、Aちゃんがいなくなっちゃう前に何か出来ればえぇなぁ？なぁ、お師さん♪」
「君は一体何をする気なのかね……」
呆れたような視線を向ける『しゅう』を見て、『なずな』はどこか懐かしむように目を細めた。それは一瞬のことで、彼はすぐに椅子から立ち上がる。
「よし！じゃあおれ、帰るよ」
「んあ、もう帰ってまうのん？」
「影片、よしたまえ。……小僧にもよろしく頼むよ」
「当たり前だ」
私を抱き抱えて、彼はビルを後にした。
道中は私のことを思ってか、他愛ない話が尽きることはない。
「そうそう！この辺りにパン屋が出来たってテレビで見たんだ。紅郎ちんが出てたから見たんだけど、今度買ってみようかな？」
これは、私も一緒に見たお話ね。このときの『なずな』は、真剣になって聞いているものだから『れお』に驚かせられちゃったの。
「すっかり暗くなったな〜。昼間は夏みたいに暑くても、夜になると冷えるから風邪引きそうだ……」
夜の空は綺麗で、いつまでも見ていたい。けれど、そんなこと言ったって伝わるわけないのにね。あぁ、そうだ。『そら』なら伝わるかしら？でも、誰かさんに怒られちゃいそう。
「ん？……あ、星が綺麗だな。」
ええ、そうね。
……いつまで、あなたと見ていられるのかしら。
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作者名：竜花 | 作成日時：2020年7月8日 23時
