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「で、考えは決まったかい?」
食後、英智君が僕に体を向ける。
はぐらかそうとしたが、彼の眼光が許してくれなかった。
「____まぁ。僕は【Fine】には入らない、今後もね」
「そうかい……それは残念だ。君の才能なら、僕たちの『ユニット』でも十分戦えるのに」
「嬉しいけど」
僕は首を振る。
英智君は微笑み、「わかったよ」と言った。
「決意は固いようだね。この件からは手を引くとしよう」
「うん。っと、英智君、次は音楽室で歌の練習だよ」
「おっと。随分長居してしまったね。急がなければ」
英智君からの提案、それは【Fine】に入らないか、というものだった。
このアイドル科では、生徒が複数ある内の『ユニット』に属し、互いに切磋琢磨しあう。
戦い、自分と相手の良さを知り、それを生かす。
基本的に『習うより慣れよ』精神だ。
その中の一つが、【Fine】。
英智君が率いるこのユニットは、学園最強と謳われている。
不正は何一つ行っていない、実力だけで『最強』という玉座に座っているのだ。
そんなユニットに勧誘されたが、僕だって別のユニットに所属している。
一時期加勢したとはいえ、【Fine】に入る気はない。
僕は英智君と共に、小走りで食堂を後にした。
*
放課後、僕は一人、軽音楽部の部室に向かっていた。
軽音学部には所属していないが、そこにいるであろう人物に用がある。
野菜たちの世話は終えた。
明日くらいにはもう収穫できるものもありそうだ。
と、廊下の向こうに人影があった。
背は低いので、一年生だろうか。
なんだか狼狽している様子だったので、接触してみる。
歩み寄ったら、段々と像が見えてきた。
女子生徒だった。
しかも、夢ノ咲の制服ではない。
____あぁ……あの子か。
昼の英智君との会話を思い出す。
彼女がきっと、噂の転校生だ。
「やぁ、こんにちは」
声をかける。
と、彼女は飛び上がり、数歩後ずさった。
怯えた目で僕を見る。
「あぁごめん、驚かせるつもりはなかったんだ。君、プロデュース科の転校生でしょ」
笑顔で、かつ優しく問いかける。
彼女は警戒心を解いたのか、少し肩の力を抜いた。
そして、こくこくと何度もうなずく。
「そっかそっか♪僕はアイドル科、三年A組の柳葉A。君は?」
彼女は口をぱくぱくさせ、言葉を選んでいる。
どうやら口下手のようだ。
そして、数秒間の沈黙の後、
「小桜、あんず……です」
消え入りそうな声で、彼女は名乗った。
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墨大蛇(プロフ) - 春斗さん» はい、ありがとうございます! (2016年3月7日 23時) (レス) id: 4010cde58c (このIDを非表示/違反報告)
春斗 - 更新頑張ってくださいね! (2016年3月7日 23時) (レス) id: c4a09d2157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:墨大蛇 | 作成日時:2016年3月7日 23時