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9話 ページ11

定期的に訪れる病院。
Aと出会った当初から世話になっているここは、一週間に一度、一ヶ月に一度と頻度が減っていき、今では三ヶ月に一度になった。

「寂雷先生!こんにちは!」
「こんにちは、Aさん、左馬刻くん」
「ども」

遠いと分かっていても、暴力の傷に心の傷…あまりに深く複雑な傷を抱えたAを下手な医者にかからせたくなくて、わざわざここまで足を運ぶ。

最初こそ先生に怯えていたものの、今ではすっかり慣れたもので、通院だというのにえらく嬉しそうにする。

「さて、最近調子はどうかな?」

診察用の椅子に座り、ふわふわと笑うAを微笑ましげに見つめ問いかける先生。

「はい、特に傷は痛まないし絶好調です!」
「…左馬刻くん」

Aが答えた直後、見計らった様に呼ばれる自分の名前。
慣れたもんだ。今更驚きやしない。

「一週間前の深夜、夢で魘されて軽く過呼吸になった」

通院頻度が減っていくにつれて、こいつは自らの不調を申告しなくなっていった。

Aを救い出してから数年経つ。
厄介なことに、こいつは自分の傷は時が解決したと思い込んでいる。

「う…あ、あれは…」

俺の指摘に、バツが悪そうに言葉を濁す。
シュンとなる姿に心が痛むがこればかりは庇えない。

「はぁ…Aさん、身体に少しでも異変があったら、診察の時に言って欲しいと言っただろう」

僅かばかり声色を固くし、幼子に言い聞かせるように言葉を紡ぐ先生。

医者である先生にすら、"迷惑をかけたくない"とでも思っているのだろうか。
しかしその思いが逆に、俺や先生を困らせる。

どれだけ頼れと説いても、頑なに"大丈夫"と繰り返す姿は痛々しくて。
これでも今はだいぶマシになってきたが、まだまだ自分の痛みを隠す癖は治らない。

「Aさん」

俯くAの手を優しく包み込み、先生はゆっくりと口を開いた。

「身体の傷は、時が経てば治る。でもね、心の傷を治すのはとても難しいことなんだよ。
痛みに慣れるのは、いいことではない。痛い時は痛いと、苦しい時は苦しいと、言っていいんだ。
君の傍には、左馬刻くんというとても頼もしい恋人がいるだろう?彼は強い。君の喜びも悲しみも、全てを受け入れてくれるよ。
…そうだろう?」
「…当たり前だ」

お前を苦しめるものは、全て俺が消してやる。
俺がお前を、ずっとずっと守ってやるから、

俺の隣で、笑っていてくれ。

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和三盆糖(プロフ) - 香織さん» 閲覧、コメント誠にありがとうございます。ベタ甘な左馬刻さまが刺さったようで嬉しいです…!!マイペース更新にはなりますが、引き続きお楽しみいただけましたら幸いです。 (2021年6月6日 17時) (レス) id: 4f53f84ba0 (このIDを非表示/違反報告)
和三盆糖(プロフ) - さちゃんさん» コメントいただいたのに直ぐに気付くことができず、お返事出来ておらず申し訳ございません。かなり時間が経ってしまったのでもう届かないかもしれませんが…閲覧、コメント誠にありがとうございます。どうにか完結まで頑張りますので、また遊びにいらして下さい。 (2021年6月6日 17時) (レス) id: 4f53f84ba0 (このIDを非表示/違反報告)
香織(プロフ) - 久々の更新ありがとうございます!とても気になる展開と安定の左馬刻さまっぷりで最高です。続きを楽しみにしてます! (2021年6月5日 23時) (レス) id: be1cefb69b (このIDを非表示/違反報告)
さちゃん(プロフ) - とてもすきですT_T更新楽しみにしています>_< (2020年4月6日 1時) (レス) id: ffa613b322 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:和三盆糖 | 作成日時:2019年3月3日 19時

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