No.56＊龍神邪炎 ページ26
「チッ」
月下獣は、クロの影を切るように大きく振りかぶる
しかき、其れは彼自身には当たることなく、
「……あー…………めんどくさい」
「そんなッ！」
何一つ、ダメージを受けていなかった
「あのですね……… 不愉快なんですよ、貴方達」
「何？」
クロの言葉に二人が反応する
だが、彼はそんなことお構い無しに話し出した
「ルアとロフはもともと僕達のモノなんです
確かに昔、いざこざはありましたよ？
でも、彼女達にとっての“本当の居場所”は此処
………分かりますか？
どんなに恋焦がれても、完全なる光にはなれない悲しさが
……あぁ、でも、貴方達にわかる訳なかったか
黒として生まれ、黒として育った芥川龍之介さんに、光を見つけた中島敦さん？」
そう言ったクロの顔には、絶望や嫉妬、孤独、色々な負の感情と共に、ちらほらと羨望や憧憬の意も見える
しかし、本人はそれに気づいていないようだった
「貴方は、何故──」
こんなことするんですか
中島はそう聞こうとしたが、その刹那、彼の横を黒いモノが通り抜ける
そして、目の前に居たクロの体から、鮮やかな“赤”が溢れ出た
「え、」
「葵達の気持ちが分からぬだと？」
そう、芥川が彼を切り裂いたからである
「芥川！お前ッ、何を」
「黙っていろ人虎」
「ッ！」
いつもなら無理にでも芥川を止める中島だが、今回だけは、彼を止めることをしない
「…… あーあ 残念…………
僕も、用無しになっちゃった………」
クロは、芥川が近づいてきていることに気づきながらも、諦めたような笑みを浮かべていた
「貴様は先刻、僕達に葵達の気持ちは分からぬと言ったな」
その問いに対して、嗚呼、と生気のない声で答えるクロ
だが芥川は、そんな彼に、何の躊躇いもなく蹴りを入れた
「ｶﾞﾊｧｯ」
「なっ、」
芥川に蹴られたことにより、彼の口からまた勢いよく血が出る
すると、芥川はクロの胸倉を掴み、グッと持ち上げた
「そのようなこと、当たり前であろう」
「ッ、」
芥川の真剣な目に、クロは言葉を詰まらせる
「僕は葵でもなければ華恋でもない
本人で無い限り、その気持ちを完全に理解することは不可能
だが、それでも、気持ちを理解しようとし、人間は歩み寄っているのだ
…………もちろん、僕自身も」
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作者名：龍神邪炎＆チョコレート x他1人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2017年12月19日 14時
