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「......もういいわ。でも、この手、離してもらえないかしら。場所はわかっているわ、あなたよりもね」
「あ、そっか」
恐らく今の今まで、彼女が先輩だということを忘れていたのだろう。
しかし、彼は手を離さなかった。
むしろ、先程より力がこもっている。
ふと、スバルは何かを思い出したのか、Aに声をかけた。
「先輩は『プロデューサー』なんだよね?」
「ええ」
「『プロデューサー』って、衣装作りも作ったりできるの?
ほら、俺たち、『ユニット』を結成したばっかりだからさ。専用の衣装がないの、憧れの『ユニット』専用衣装〜♪」
まとまりのない、スバルの説明。
「安心して、今大体の構成が出来上がってるわ。また後日、寸法を行うから」
さすが、手慣れている。
「おお〜! 出来たら見せてね〜☆」
「もちろんよ。
......スバルくんは、キラキラしたものが好きなのよね?」
今度は、Aがスバルへ質問を投げ掛けた。
「そうだよ! キラキラしたものが大好き〜☆ とくにお金が一番〜♪」
「...そう」
聞いて、どうするのか。
彼女は何も語らなかったが、きっと何かに使うのだろう。
スバルは気にもとめていないようだ。
やはり馬鹿なのだろうか。
ほんの少しだけ、無言で歩いた。
スバルが喋らないと、本当に静けさが身に染みて実感できる。
彼女は互いに無言でもあまり気にしないのだが、彼のほうは むずむず と肩を揺すらせて、彼女のほうを何度も見てくる。
まだ、手は繋いだまま。
暗い海を、ただ一枚の板きれに身を委(ゆだ)ねて、2人ぼっちで漂流するみたいに。
「......あはは。俺、昔からどうも苦手でさ。暗くなったり、悩んだり、困惑しちゃったりする感じが。よくわかんないし、共感できない」
嘘くさいほどの笑みを消して、スバルは独り言のように呟いている。
「俺、どっか人間として欠けてるんじゃないかって......。喜怒哀楽のどっかが、すっぽり抜けてる感じがする。それで、周りをよく傷つけちゃうんだよね」
Aは相づちを打つことも、何かすることもなく、ただただ静かに、彼の言葉を聞いていた。
彼の、次の言葉を待っている。
誰かに聞いてほしいと思って発せられた、大事な声を。
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、 - この作品の続編ですが、最新作はオリジナルフラグが外れておりません。違反行為ですのでちゃんと外して下さいね (2018年8月9日 18時) (レス) id: 93bb7a0f46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白銀桜夢 | 作成日時:2017年10月29日 17時