＊今日一日聞きたかったこと ページ10
とは言ったものの、帰り道、会話はほとんどまばらにしかなかった。
一日一緒にいて、結構いろんなこと話しちまったし、まだいろいろ話したいことあるけど、上手く出てこねぇし……
それに、結局一日中、Aが声出すこともなかったし……
……あ！！
そう言えば、ずっと聞きそびれちまってた！！
翔「なあA。一つ聞いていいか？」
今は二人きり。
また那月が飛んで来たりでもしない限り、邪魔が入ることはない。
今日一日ずっと聞きたかった疑問を、俺はAに投げかけた。
翔「お前、声、どうしたんだよ？今日一日ずっと筆談だったよな？」
そう問いかけた瞬間、Aの表情が一気に暗くなった。
そして、喉を抑えたまま、何も答えない。
……いや、もしかして、答えられないのか？
翔「まさかお前、声、出せなんぐっ！？」
声が出せなくなったのか。
そう言おうとした瞬間、Aは俺の口を塞いだ。
まるで、言うなと言うように……
そして、泣きそうな顔をしながら鞄からノートを取り出して、少し長文でこう答えた。
『昔、喉の病気で手術した。でも、失敗して、声は出せても、掠れててほとんど聞き取れない。もう、一緒に歌うこともできない』
翔「っ……！！だから……」
だから、突然会いに来なくなったのか……
会えば俺、絶対歌おうって言っただろうし……
今日一日声を出さなかったのも、出せなかったのか……
『でも、音楽は好きなまま。だから、せめて作曲家としてって思って、ここに来た。歌えなくても、音楽を続けたかったから。そしたら、同じクラスに翔がいた』
また少し長めの文章をノートに書くA。
そして、俺が読み終わったのを確認すると、ページをめくった。
そこには……
『嬉しかった』
そう書かれていた。
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作者名：十九 雷音 | 作成日時：2017年4月23日 1時
