＊プロにしかわからない世界 ページ35
龍也「曲に関しては、今のところ一切言うことはねぇ。技術も表現力も申し分ない。この調子で行け」
あれだけ厳しい龍也先生が、ここまで褒めるなんて……
やっぱすげぇよ、A。
そんな龍也先生の言葉に、声を出せない代わりにペコッと頭を下げるA。
龍也「歌のほうも、技術に関しては言うことはねぇ。だが……アイドルとしてやっていきたいなら、一番大事なもんが足りてねぇ」
トキヤ「一番、大事なもの……ですか？」
龍也「お前の歌にはハートがねぇ。技術だけあったって、アイドルはやれねぇんだ」
一層厳しい声でそういう龍也先生。
ハートがねぇって、俺には全然そういう風には感じなかった。
足りねぇもんなんて見つからないくらい……口出ししようがないくらい、完璧な歌に聞こえた。
それとも……単に実力の違い見せつけられて、圧倒されてるだけなのか……？
これが、“プロ”にしかわからない世界、なのか……？
龍也「次、来栖」
翔「へっ？は、はい！！」
モヤモヤと一人考えていると、次は俺の名前が呼ばれて、慌てて返事をする。
あんなすげぇもん見せられた直後に、俺の番か……
ただでさえ緊張してるってのに、トキヤの歌とAの曲のすごさが、より何倍ものプレッシャーになる。
そのプレッシャーのせいか、心臓が痛いくらいに音を立てる。
そんな不安を抱えていると、不意に誰かが俺の服の裾を掴んだ。
その正体は……
『頑張って』
Aだった。
少し急ぎ気味に指文字でそう伝えると、優しい笑顔を見せる。
それでも、やっぱプレッシャーが消えるわけじゃない。
でも……
翔「おう。よく聞いとけよ？」
Aのその笑顔が、ほんの少しだけ、安心させてくれた。
せめていつも通りを保てるように……
そう思いながら、俺はブースに入り、テストに臨んだ。
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作者名：十九 雷音 | 作成日時：2017年4月23日 1時
