＊見せない涙 ページ28
あれから、あんまりAを待たすのも悪いと思って、できるだけ早足で図書室へ戻ってきた。
トキヤもまだ調べ事の最中だったみたいで、図書室の入り口で分かれた。
のはいいけど……
翔「あれ？いねぇ？」
さっきまでいた筈の場所に、Aはいなかった。
他の席に座ってる様子もねぇし……
なんか本見て回ってんのか？
異様に広い図書室だから、ちょっと席から離れた棚とか見に行ってると、見失っちまってもおかしくねぇよな、こりゃ。
そう思って、軽く図書室の中を探してみる。
すると、思ったより早く見つかった。
けど……
翔「なっ、お、おいA！！何泣いてんだよ！！」
その場でしゃがみこんで、声も出さずに泣いてた。
いや……正確には、声出ねぇんだけど……
びっくりして慌てて駆け寄ると、少し表紙が涙でぬれた分厚い本が目に入る。
その本は、俺にも見覚えがあった。
翔「Mother Goose……」
もしかして、これ見ていろいろ思い出してたのか？
昔のこととか、自分の声のこととか……
それで……
翔「うおっ！？」
まるで見るなと言うように、Aは本を俺の顔に押し付ける。
不意打ちで顔面に喰らっちまったから、鼻が……！！
翔「っ……ったく、しょうがねぇな！！」
とりあえず目の前に押し付けられてる本をどかして、俺はAの腕を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめて、そっと頭を撫でてやる。
翔「これなら、顔見えねぇだろ。我慢とかしなくていいから、泣きたいだけ泣いとけ」
そう言うと、Aはまるで顔を隠すように俺の肩に顔を埋め、肩を震わせて泣いていた。
そのままAが落ち着くまで、ただ黙って頭を撫でてやる。
普段毅然としてるから気づきにくいけど、やっぱ声のこと、気にしてんだな……
けど……俺、なんもしてやれなくて……
そばにいてやることしか、できねぇ……
Aを抱き締めながら、そんな自分が情けなく感じていた……
.
＊思い出のMother Goose→←＊Humpty Dumpty ―夢主side―
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作者名：十九 雷音 | 作成日時：2017年4月23日 1時
