ミラー・ツインズを守りたいんです

君の温もり ページ35

19、君の温もり
side勇吾



朝はいつも宏光の声で目が覚める。
洗面所で歯を磨き顔を洗いリビングのドアを開けると、いつも朝食の良い匂いが出迎える。



『おはよう勇吾』

『ふふ…、ご飯できたよ。食べよ』



いつもの朝。こんな日常がずっと続くと、当たり前のように思っていた。









「……？」



布団からゆっくりと起き上がる。
宏光が起こしに来ない。
身だしなみを整えリビングへ向かう。
何の匂いもしない。宏光もいない。



「…宏光？」



ガシャンとキッチンの方から聞こえ足早に向かうと、宏光が床に蹲っていた。



「宏光っ？おい、どうした！？」



慌てて抱きかかえると、宏光はグッと目をきつく閉じて何かに耐えるような顔をしていた。



「どうした、どこか痛むか？」
「…っ…ん…なんか…っ…、胃が痛く…てっ…」



ぎゅっと押さえ込んで苦しそうに呻く様子にただ事ではないと慌ててスマホを取りに行こうと立ち上がろうとした。



「宏光っ？悪い、少し離してくれ救急車を…」
「ん…いた…っ…痛い…ゆうご…っ」
「すぐ病院連れてってやるからっ、だから離し…」
「ぅ…っ…ゴホッ…っ」
「っ…！？」



宏光の背中が大きく震え、咳と共に赤黒い液体を大量に吐き出した。

ツンと鼻につく錆び付いた匂い…、それが血だと理解するのに数秒かかった。



「お…い…、ひ…ろみ…つ……？」
「はぁ……は…っ…、…ぅう…っ…ゲホッ…」



宏光の顔から徐々に色が消えていく…
なのに宏光も、抱えている俺自身も、どんどん赤に染まっていく。



「何だよ…これ…っ…宏光…、っおい宏光、しっかりしろ宏光っっ！」



力の入っていない身体をガクガクと揺さぶると、閉じられていた宏光の目が急に見開いた。
睨み付けるような眼差しに恐怖で息を呑むと、口から血を流しながら宏光は言った。



お前がやったんだろ、と。



「…は？」



一体何を…
口を開きかけたその時手にずっしりと重みを感じた。



「──っ！？」



手には黒い拳銃が…血に混じって硝煙の匂いがした。



「……っ…は…？」



俺が…俺がやったっていうのか…？



「…っ…あ…圭吾…圭吾…っ！」



訳が分からず片割れの名前を叫ぶと、血塗れで息も絶え絶えだったはずの宏光があっけらかんと答える。



「何言ってるの勇吾。圭吾は──」









.









──圭吾は２０年前、誘拐されて殺されちゃったじゃない。








ぐらり、世界が歪んだ音を聴いた。

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