Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ5)

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110.ふたり。ページ5

櫻井さんが立ち上がり、階段を降りようとしてる。

鶴を撫でるのをやめた智さんが「翔くん」って声を掛けた。

「どこ行くのー？」
「ん？酒貰いに、松潤のトコ行こうと思って」
「待って、おれも行く」

よいしょ、って智さんも立ち上がり櫻井さんと一緒にベースから下へ降りて行った。

ふいに周りの音が小さくなり、ブースにまた目を向けると

前に見た時のように、先生がピースした手を高々と挙げて

その手を下げたと同時に大音量がMIYABI中に響き出す。

光が揺れる。

先生が揺れる。

空気が、揺れる。

「金持ちが高い所に住みたがる気持ちが分かるよな」

いつの間にか、隣で私と同じようにブースを眺めてた二宮さんが呟いた。

「優越感。天下取った気分にならね？」
「フフッ、何となく分かるかも」
「だろ？殿様気分」

ビールを飲み、先生を眺めて「カッコつけてんなー」って笑う。

ロリポップを咥えたまま、ブースに立つ相葉先生は

溺れそうな音の中で、綺麗に泳ぐ。

「でも子さぁ」
「はい？」
「嘘、ついたろ」
「...え？嘘、って？」

お腹に響く大音量。

声が消されないように、私が少し大きな声で話してると

二宮さんは『声を大きくする』では無く、私の耳と自分の口の距離を近付ける事を選んだらしく

ズズズっと、手摺を滑るように身体を寄せて来た。

「オレ、訊いたでしょ？」

先生が作る音の中、近くから二宮さんの声が耳に届く。

「相葉さんのコト、好きなの？...って」

思い切り二宮さんに顔を向けてしまった。
効果音を付けるとしたら『バッ！』

こんな焦りが全面に出た態度、絶対にまた馬鹿にされる！って思ったら

二宮さんはクスリとも笑わずに、私を見てた。

「...そんなコト、訊かれましたっけ...？」
「忘れた？」
「ちょっと記憶に...」

ある。

残ってる、その記憶。

相葉先生のコトが好きなのか二宮さんに問われて、私は『単なる患者』だと答えた。

「ンフッ、覚えてないのかよ」
「...何かすみません」
「お前のそん時の答え、嘘だったんだなーって思ったんだけど」
「.....」

何も言わない私に

「じゃ、改めて」

二宮さんは

「相葉さんのコト、好きなの？」

同じ質問を、する。

「何で...そんな事を訊くんですか...？」

私は、あの日は訊き返せなかった事を、訊く。

「そこ、知りたい？」
「...はい」

二宮さんは、小さく息を吐いて

ブースで音を操る先生に、緩く視線を向けた。