Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ31)

今日:1 hit、昨日:11 hit、合計:1,815,598 hit

136.本当の理由。ページ31

私が掴んでた手を離すと、先生は鶴を潰さずにその手をテーブルの上に乗せた。

「先生。本当に、潰すのが好きなんですか...？」
「何で？」
「全然、好きそうには見えません」

ずっと気になっていた。

先生は折った鶴を潰すのが好きだと言っていた。
だけど、いつだって潰す瞬間に少し眉間に皺を寄せていた。

痛みを含んだ、表情を浮かべていた。

「お待たせいたしました！チョコパフェとプリンパフェでございます！」

店員さんがテーブルにパフェを二つ並べて

「失礼いたしました！」

あっとゆー間に去って行く。

「本当に、それが理由なんですか？」
「......」
「あ...ごめんなさい、余計なお世話ですよね！アハッ、パフェ食べましょう！」

変な沈黙に耐え切れなくなって、私はプリンパフェを自分の方に引き寄せてスプーンを手にした。

一番上に乗ってるプリンをすくって口に入れる。
じんわり甘さが口の中に広がる...のに、あんまり味を感じないのはきっと、先生が黙ってしまったからだ。
私が、黙らせてしまったからだ。

「あの...ホントにごめんなさい...」

どうしたら良いのか分からなくって、謝るしか出来ない。

「ううん、謝らないで？ビックリしただけだから」
「ビックリ...ですか？」
「うん。バレてると思ってなかった」
「......」
「俺の嘘」

先生の指が、ピチンと折鶴を弾いた。
その弾みで鶴はコテンと倒れた。

「潰すの好きって言ったの、嘘。...まぁ嘘でも無いんだけど。綺麗な物を壊したくなるって言ったでしょ？それは本当だから」
「...はい」
「鶴を潰すのは、その衝動を抑える為」

倒れた鶴を見詰めながら、先生が話す。

「俺ね、絶対に壊しちゃいけないモンを壊したの。それが、今までで一番の失敗」
「......」
「...失敗、って言うのもちょっと違う気がするんだけどね。そんな軽いモンじゃないから」

フッ、って小さく笑って今度は倒れた鶴を指先でつつく。

「これ以上何も壊さないように、コイツを潰してた」
「これ以上...？」
「こうやってないとさ...」

先生が、視線をゆっくり上げて

私と目が合ったと同時に、何かを諦めたような笑顔を見せた。

「俺、また壊しちゃいけないモノ壊しちゃいそうな気がして」

怖いんだ、と。

先生は、あまり温度の無い声で呟いて

「あ！アイス溶けちゃう！」

でももう次の瞬間には、口を大きく開けて

「うま！疲れた体に沁み渡るぅ」

美味しそうにチョコパフェを頬張っていた。