Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ32)

今日:10 hit、昨日:1 hit、合計:1,815,737 hit

137.とっとくタイプ。←6.4 ページ32

チョコパフェに刺さってたウエハースを、最後にパリパリと食べた先生が

「Aちゃんって好きなモノ、最後までとっとくタイプ？」

って訊くから「とっとくタイプです」と答えて、最後まで残してた真っ赤なチェリーを口に入れた。

お互いのデザートグラスが空になった時、先生が何か思い出したようにスーツケースの持ち手に引っ掛けてたビジネスバッグを取って中をゴソゴソ。

「これ！忘れない内に」

そう言って先生がテーブルに出したのは、私が貸してた漫画。
こないだ返して貰う前に一冊貸したから、二冊。

「いつAちゃんに会っても良いように、最近ずっと持ち歩いてたんだよね」

先生が何気なく言った言葉を、私の耳はとんでもない甘い言葉に変えて胸に落としてしまう。

恋ってモノが厄介だと思うのは、こーゆー所。

「あ...ごめんなさい、私今日持って来てなくて」
「ううん、気にしないで？続きは気になるけど」

俺と先輩の恋物語ー、って笑う先生に

私と恋物語、してみませんか！？なんて割と真剣に思ってしまう自分にドン引き。

ファミレスを出て、二人で来た道をまた歩く。

ゴロゴロゴロ...とスーツケースのコマがアスファルトを転がる音。

「元気出た？」
「え？」

きっと、私の顔はキョトンとしてて

先生はそんな私を見て、ちょっと笑った。

「出たっぽいね」
「あ...っ！はい、何か...ありがとうございます」

自分が落ち込んでた事すら忘れてしまってたお気楽な脳みそに、新たな落ち込み。

「甘い物ってホント幸せな気分になるよねー」
「はい！明日から頑張ろうって思えます」

私の場合、きっとそれは甘い物のお陰だけでは無いけど。

「何か気分転換して貰おうと思ったのに...逆に変な話聞かせちゃってごめんね」
「え...？」
「俺の失敗談」

ゴロゴロゴロ...先生の歩幅に合わせてスーツケースが地面で音を立て続ける。

「...先生」
「ん？」
「これから鶴を折ったら、私に下さい」
「え...？」
「潰さずに、私に下さい」

私は、こないだ先生が学生時代のコトを話してくれたのも

今日、過去に何か抱えてるコトを話してくれたのも

すごく嬉しかったから。

「先生が辛そうな顔してるの、見たくないなと思って...」

先生の力になりたい...って思う。
私なんかが烏滸がましいのは分かってるけど。

それでも、先生がほんの少しでも楽になるなら。

「...ありがとね、Aちゃん」

先生の掠れた声が、じんわりと胸に広がった。