Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ30)

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135.翳す。ページ30

「ちょっと、気持ちが緩んでたんです」

先生が、うんうんって小さく頷きながら聞いてくれる。

「クライアントとのアポを一日間違えちゃって...幸い、すっぽかしたんじゃなくて早く行ってしまったから大問題にはならなかったんですけど...」
「うん」
「一歩間違えば、私のせいで会社の信頼も失って大きな損失を出したかもしれなかったんだって思ったら...もう、情けなくて」

そこまで話して、ハっとした。

「ごめんなさい！こんな話しちゃって！」

愚痴なんか聞かせちゃったよー...最悪だ。

何か挽回させたいのに、何も話題が浮かばない。
話題ゼロ女子、残念過ぎる。

「ううん、全然良いよ？Aちゃんがラクになるなら、いくらでも聞くよ」
「え...でも...」
「ん？今、何て言った？」

ニヤっと意地悪な顔した先生に慌てて「何も言ってません！」って首を振る。

『でも』を聞き逃さない先生。

「失敗なんてさ、誰でもするって...なんて、ありがちな慰めかもしんないけど」

紙ナプキンに手を伸ばして、彼はそれを端っこから三角形に折って、余った部分に折り目を付けてスーっと綺麗にちぎる。
もう、何度もやってるといった感じの慣れた手付き。

「俺なんて、人生変わっちゃうよーな大失敗してるし」

薄く笑った口元が、呟く。

「え...？」
「前に言ったかもしんないけど、俺プー太郎だった時期があるって」
「あ...はい、聞きました」

櫻井さんとお仕事の話をした日の帰り、電車の中で先生はそんな事を言っていた。
でも、詳しく訊いたらいけない事な気がしてた。

「その失敗が原因。仕事も辞めて、何もする気起きなくて...結局見かねたニノと潤くんが助けてくれたんだけどさ」

先生の指が、ナプキンを鶴の姿にしていく。

何度も何度も折ってるからだろう。

その鶴は、とっても綺麗な形で嘴の先までピンと尖っている。

自分がこんなに綺麗に折れたら、何だか勿体なくて捨てられないって位の出来なのに

先生はやっぱり、出来上がった鶴の上に掌を翳した。

「...Aちゃん？」
「あ...えっと...」

気付いたら私は、先生のその手首をギュっと掴んでいた。

鶴を潰そうとしてるその手を、止めるようにギュっと。

「何で潰しちゃうんですか...？」

私の質問に、先生は困ったように小さく口角を上げた。

「潰すのが好きだって、言わなかったっけ？」
「...だけど...」

口を開けずに「ん？」と首を傾げた先生は

儚げで、消えてしまいそうに見えた。