食い食われ (ページ10)

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「あ～いかん…遅れた」

目が覚めて、屋上からテニスコートをぼうっと眺める彼。
時間はいつの間にやら放課後になっていた。
澄んだ青い眼と、グレーの髪。伸びている襟足部分をひとつに結っている。

「…………」

頭をわしわしとかく。それから、伸びをしてやっと立ち上がった。
彼の名前は仁王雅治。何かとサボり癖のある彼だが、今日は珍しく時間通りに部活に出ようとしていた様子だった。

「やっとるの～」

柵に腕を乗せ、ラリーをする部員達を観察する。
サボろうとする彼ではあるが、自分の技術のために動いていたりはするらしい。
そう、これはイリュージョンのため。イリュージョンする相手のクセや仕草を見ていなくてはならない。

「……さて」

今からでも部活に出ようか、どうせ遅れているしいつも通りふらっと行くか。
どちらにしようか考えていた雅治の頭に、もうひとつの案が浮かぶ。
我ながら名案じゃ、と呟いてから雅治は鼻歌を歌いながら屋上を出た。

「…ぃよっ……と」

場所は変わって、花壇前。
Aは美化委員としての仕事に取り掛かっていた。
肥料を運ぶように先生から頼まれているが、これが重くて仕方ない。
精市はというと、今は休んだ委員長の代理で生徒議会に出席している。

「ぐ…おっっも…」

足がたまにふらつくが、頼れる人も今は周りにはいない。
自分が頑張るしか選択肢は残っていないのだ。
生憎、空も曇ってきている。雨が降る前に作業を終えたいところ。

「お、うわっ」

「…大丈夫か」

「ごめんなさい、ありがとうござ…柳くん！？」

「……」

よろけた体を後ろからふわ、と支えられた。
誰かとお礼を言おうと後ろを向けば、今日3度目の彼であった。

「…？…会議は…？」

しかし今日は生徒議会のはずだ。
委員長と、クラス委員長、生徒会が集まる会議なので今Aの目の前にいる彼も出席していなければならない。

「……早く部活に出たいのでな。抜けさせてもらった」

「そ…そうなの…？」

「ああ」

いつもとは違う気がする彼に怪しさを覚えながらも、Aは仕事の続きをしようと再び荷物を持った。
これを女1人に頼む先生はどうかと思う。

「運べるのか」

「運ばないと終わらないしね」

「…」

そうは言うものの、やはり足元が覚束無い彼女を見て放っておくわけにはいかない。
が、今の彼にはあれを運ぶパワーが足りていなかった。

「部活行かないの？」

蓮二にイリュージョンした、雅治だったのだ。