食い食われ

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「うーん…」

いつもの様に、Aはまたメニュー表の前に立って頭を悩ませていた。
そう。お昼の時間である。

「…昨日柳くん何食べてたっけ…」

もうそろそろ彼が後ろから声をかけてくるはずなのだが、今日は違った。
それが分かっているAは、やっぱり少し物足りない感じがして、寂しくなる。
財布を持ってとぼとぼと列に並び、自分の番が来るのを待つ間。

「いや別に…いつも約束してるわけじゃないし…？」

Aは、彼の存在が自分の中で大きくなり始めていることに驚いた。

「…………いやあ…」

これは好きになり始めているということでいいのだろうか。
恋愛経験豊富ではないAにとって、好きという感情は難しいものなのである。

「うわっちょ……！？危ねえ！！！」

そんなことをぼーっと考えていると、近くで騒音が鳴った。
次に視界がぐらつき、気付けば体と床がくっ付いている。

「…………？…？」

一瞬のことすぎて、何が何やらAには理解ができなかった。
そのまま仰向けになれば、天井と彼女の周りを囲む生徒たちの心配そうな顔がいくつか見える。

「何……？」

「うわっ…アンタ、大丈夫か！？！？ケガとか……っあ～～えっと……！！マジですんませんっス！！！！」

「……はあ」

上半身を起こしてみる。
隣にはお盆と、それに乗っていたうどんの皿。そしてそこからこぼれている汁。
その汁はえらいことに、Aのスカートを濡らしていた。

「え！？あっ…熱！？」

「保健室！保健室！！」

「！？」

なんだか目まぐるしい。
誰かも分からない、もじゃもじゃ頭の彼に手を引かれて保健室へ向かう。
太ももが熱い。火傷だ。

「すんませーん！！！」

保健室のドアをこれでもかと勢いよく開けた彼は、かなり焦った様子で先生に話しかけている。
まだ状況を理解しきっていないAは、とりあえず靴を脱いでドアをきちんと閉めてから椅子に座った。