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「精市くん」
「何？」
「柳くんからの電話をぶち切りする女ってどう思いますか」
「良くはない」
「だよね…」
次の日の朝、机に伏せて明らかに落ち込んでいるAを発見してしまった精市は仕方なくその前の席を借りた。
励ましてやるのも、昔からの幼馴染の務めである。
「ぶち切ったの？」
「いや…話の流れはもう終盤だったしもう切るねって雰囲気だったんだけど…」
「はっきり言わなきゃ分からないよ」
「……お…怒らないかなあ、柳くん」
今までこんなに他の人を、しかも異性を気にするAの姿を見たことがなかった精市は驚いた表情。
それを見たAはだから言いたくなかったという表情を浮かべている。
「っふふ、蓮二はそんなことで怒らないと思うよ」
「笑わないで…」
「ごめん、ほんとに珍しくてさ、…ふ」
「精市くん」
「ごめんって、ね。…じゃあ話しに行けばいいんじゃないの？謝りにさ」
簡単に言うなあとは思うが、精市の言っていることはごもっともであった。
今日はお昼に一緒に話す時間もないし、休み時間のどこかで彼の教室に突撃するのも良いのかもしれない。
「そんなに重要なことじゃないと思うけど」
「そうなんだけど、まあ…」
「話しに行きたいんだろ、分かる分かる…というか来てるよ、向こうが」
「え」
精市にそう言われ、ドアの方を見ると本当に彼が立っている。
誰かを探すようにしばらく教室を見渡していた。
「呼ぼうか」
「精市くんが向こう行きなよ」
「やだよ。蓮二！」
精市の声に気付くと、少し微笑み教室に入ってきた彼。
やけに緊張する。いつも通りにできる気がしていないAの様子を精市は面白がって見ている。
コツコツ近づくローファーの音に重なるように、心音が大きくなっていく。
「おはよう、A」
「お、おはよう…」
「手を出してくれ」
「…？」
緊張で手汗をかいている右手を、そっと前に出した。
重なった蓮二の手に変な声が出そうになった、というか少し出たが、口をつぐんでなんとか最小限に抑える。
「…あ」
「この前食べたがっていただろう」
「いいの！？」
「お詫びだ」
「ありがとう！」
Aの手の上に置かれたのは小さなキャラメルの箱。
黄土色の、少しレトロなデザインのパッケージ。
鼻歌を歌いながらそれを鞄へ直すAを見て、蓮二と精市は顔を見合わせた。
「…食べ物1つでここまで気分が変わるのか」
「データになかった？」
「データ以上だった」
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作者名：ヤノ | 作成日時：2019年10月20日 0時
