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「いただきまーす！」
「元気だな」
唐揚げを前に、Aは両手を合わせる。
食べ物でこんなに元気になる彼女を子供っぽいと思うだろうが、蓮二はそれが愛おしいと感じていた。
「……」
綺麗な箸の持ち方に、正しい姿勢、伏せがちの目に大きく開きすぎていない口。
邪魔な髪を耳にかけながら、それを運ぶ動作は淑やかで美しい。
「美味いか？」
「ん、ふふ」
「そうか」
そのあとの心底幸せそうな顔に、蓮二は手を伸ばした。
「触るぞ」
「あ、はい」
彼の親指が、Aの唇の端を優しくなぞる。
相当ラケットを握っているのだろう。少しだけかさついている。
「片栗粉、だな」
「…ありがとう……」
たまにこうして蓮二は彼女の顔についた食べかすを取ってやるのだが、Aはそれを否定することができずにいた。
恥ずかしいしやけに緊張してしまうので自分で取れると言いたいところだが、彼の優しさを拒むわけにはいかず。
まるで触って欲しくないと言っているのと同じではないか？いや別に触って欲しいわけでもないけれど。と脳内でぐるぐる考えていた。
「…………」
「どうした？」
「いや…」
この男は、彼女のそんな風な考えも読めているのであった。
触るぞ、と言うと彼女はいつも目をキュッと瞑り少し身構える。
確実に自分の存在が意識されていることに、嬉しさを感じていた。同時に、彼女の心を俺で満たすまでもう少しかかる。そう思っている。
「柳くんのは美味しい？」
耳からはらりと落ちた髪が、そう言う彼女の頬に当たる。
「ああ」
「……」
「…食べたいんだろう」
「……」
「だがお前は今ダイエット中だと言っていたな、俺は協力するつもりでいるが」
「……柳くんが唐揚げ弁当頼むように誘導したもんだよ」
「それはお前の意志の弱さの問題だな」
「いっ…意地悪〜…！」
やけ食いするかのように唐揚げにかぶりつくAを、蓮二は柔らかい表情で見つめた。
ならば、明日に回そう。お互い別々のクラスだ。会える時間は限られているし、使える手段は使わなければならない。
「明日食べれば良いんじゃないか？食べ過ぎないように制御してやれるが」
「というと？」
「そうだな…半分食べてやろう」
「はん…3分の1で…」
「やる気はあるのか」
「あ、ある…！」
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作者名：ヤノ | 作成日時：2019年10月20日 0時
