第拾参話「蛇柱と少女と」 ページ16
**
「最近、忙しそうだな」
『久しぶりですね、小芭内さん』
振り向いたAはいつもの様に平和ボケした笑顔を浮かべていた。
「お前、俺を避けていただろう」
他の柱(主に煉獄と不死川)の任務によく同行しているから、会わないのかと思っていたが……確実に、コイツは俺と任務が一緒になることを避けている。
『そんなことないですよ!偶然、任務が一緒にならないことが続いただけですって』
「……そういうことにしておいてやる」
こういう時のコイツは何を聞いても答えない。理由を問いただすのは諦め、別の話をする。
「胡蝶が心配していた。最近、無理をし過ぎだと」
隊服から伸びた細い手足には、包帯が巻かれている。元々、多くの任務をこなす奴だ。それが最近は、下の階級の者達の仕事まで引き受けていると風の噂で聞いている。
『これですか?私がまだ未熟だから、負った傷です!だから、もっと努力をしないと』
「フン、努力だと?自身の限界さえわからず、無茶ばかりを重ねるお前の姿は努力しているように到底俺には見えないが」
俺の視線に気づいたのか、腕を背に隠したAが笑う。笑顔を崩さず、よくここまで言葉を並べるものだと感心できる。他の者なら、騙されていただろう。特に甘露寺のような優しい人間は。
『じゃあ、小芭内さんには今の私はどう見えてますか?』
Aが俺の言葉に少しだけ眉根を寄せた。自惚れだと思うが、コイツは俺の前では笑顔以外の顔を見せることがある。
言葉を煙に巻いて、人を遠のかせ、戦う。それがどうにも気にかかる。絶対に有り得ない筈なのに、俺にこの答えを導かせるのだ。
「死に急いでいるように見えるな」
だから、否定して欲しかったのかもしれない。そんなわけないじゃないですか、といつもの笑顔を願ったのだ。けれど。
『小芭内さんって、結構私のこと心配してくれてます?』
Aは否定ではなく、緩く笑った。いつもの陽の光のような笑顔ではなく、
『でも……こんな仕事してるんですから、明日死んでも可笑しくないですよ』
諦めの悪い子供に言い聞かせる母の様な顔をしていた。Aの言葉に文句の1つでも言ってやろうかと開いた口は、
「あぁ、そうだ。悪いか」
酷く震えて情けない音を紡いだ。俺の言葉にAは驚いてから、首を横に振る。
『……すごく、嬉しいです』
ずるい奴だ、と心の中で呟く。こんな時ばかり……幸せそうに笑うのだから。
236人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時