第拾肆話「霞柱と少女と」 ページ17
＊＊
「A」
『わ！無一郎、どうしたの？』
名前を呼んで、小さな体をこの腕に閉じ込める。少し驚いたAの愛しい声が、僕の鼓膜を震わした。
「なにも。用もなく、呼んだら悪い？」
『そんなことないよ！でも、ごめんね？今から、任務があるの』
俺の顔色を伺う、Aの瞳とあう。任務という言葉に眉間にシワが寄るのがわかる。
「また？最近、非番も取ってないみたいだし」
『そうかなぁ？非番は結構、とってるつもりだよ』
「じゃあ最近、いつ休みだったの？」
俺の言葉にえーっと、と視線を彷徨わせる時点で駄目だ。俺の感情が顔に出ていたのか、居心地悪そうにAが視線を逸らした。
「皆、心配してる。今日くらい休んでも誰も何も言わないよ」
『鬼殺隊の人達は優しいからね。でも、今この瞬間も、誰かが襲われてるかもしれない』
「そんなの別の人が行くよ」
『私が行きたいの。……誰かを救うことだけが、私の存在価値だから』
僕の腕の中にいる彼女を見て、自己犠牲と言う言葉が浮かぶ。が、すぐにかき消す。これは、自己犠牲なんてものじゃない。普段は、楽観的なのに自己の評価は驚くほど悲観的だ。
「Aがいるだけで、僕は安心するし元気になる。他の人達だって君に救われてる。それでも人を救うことしか存在価値が自分にないと思う？」
『無一郎、ありがとう……違うよ。逆、なんだよ。救われてるのは私の方なの』
気づけば、Aは僕の腕から抜け出していた。真っ黒な瞳はゆらゆら揺れていて、泣きそうなのに。涙ひとつ零さない。ｰｰそんな顔されたら何も言えないじゃないか。
「四日後……絶対に休んで。その日は、任務に行っちゃ駄目。行ったら、Aと一週間は口聞かないから」
わざわざ四日後を指定したのは、わけがある。その日は、彼女の生まれた日。……否、正確な出生日はわからないらしいがお館様に聞いた時に教えてくれた。
Aは絶対に、教えてくれなかったけど。他の人達にも含めてAをお祝いする計画を立てた。僕の計画に皆、積極的に協力してくれている。あの、不死川さんまで。
(ねぇ、Aのこと大好きな人は鬼殺隊にたくさんいるんだよ)
はやく彼女にそれを伝えたい。僕の言葉にAは迷った顔をしてから、小さくうなづいた。
『わかった』
「約束だよ」
絡めた指が離れていき、Aは任務へと向かった。四日後。背を向けたAの顔が複雑そうだった理由を僕は、知ることとなる。
第拾伍話「幸せの話をしよう、君と」→←第拾参話「蛇柱と少女と」
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (
レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います！ (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして！お話面白かったです！更新頑張ってください！ (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです！夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ！完結おめでとうございます！！とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました（笑）今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちょこもち | 作成日時：2020年3月18日 17時
