愛しい太陽【鬼滅の刃】

第拾弍話「岩柱と少女と」 ページ15

＊＊

『行冥さん、よろしくお願いします！』

「うむ……では、始めよう」


普段は、玄弥と私の声しか聞こえない屋敷だが今日は違う。私の目の前で木刀を握っている彼女の明るい声が響いた。

鍛錬をしに外に出ると、突然Aが訪ねてきたのだ。任務に出ていた筈の彼女がこちらに来ていることに驚いた。


『これから、こちらに来れそうにないので……行冥さんに鍛えてほしくて来ちゃいました』


彼女が鬼殺隊に入ったばかりの頃は、よく鍛錬に付き合っていた。最初は、私に一撃も与えられず拗ねていたあの頃が随分遠い日のようだ。

勿論、断る理由もなく了承し冒頭に至る。
私の掛け声と共に、雰囲気が一気に張り詰めた。普段の彼女からは考えられない、肌を刺すような圧迫感が襲う。

(南無……これは、油断出来ないな)

昔とは違う、彼女を目の前にして私は喜びを噛み締めながら木刀を振り上げた。

◇

『あー、結局1本も取れなかった……!!』

私の傍で彼女が木刀を投げ出して、呻く。久しぶりの鍛錬に少々、私も熱くなりすぎてしまった。悔しいー、なんて叫ぶ彼女の顔は、恐らく笑っているだろう。


「……君はいつも明るいな」

『よく言われます！この前なんて、小芭内さんに平和ボケし過ぎだって言われちゃいました』


鬼に襲われ、人に傷つけられ、この世は絶望に満ちていると知った。鬼を斬り続ける毎日は自分を保つ為に、気を張らなければいけない。でも、彼女が傍にいる時だけは不思議と緩んでしまう。


「どうして、そんなに笑えるのだ」


まだ幼い少女が鬼殺隊にいるなんて、何か事情はあるだろう。それでも、彼女は笑っている。いつだって、変わらないその笑顔に私はいつも疑問だった。


「鬼がいる限り、悲しみは生まれる。君だって、悲しい思いをした筈だ……なのに、どうして笑っていられるんだ？」

『だからですよ』


柔らかくも、芯の強い彼女の声が私の鼓膜に届く。


『だからこそ、楽しい時くらい思いっきり、笑いたいじゃないですか』


私は、目が見えないがわかる。彼女は、きっと優しい陽だまりのような笑顔を浮かべているのだと。


「あぁ、惜しいな」

『え？』


思わずそんな言葉が出た。子供は無慈悲だ。自身を守る為ならば平気で嘘をつく。無邪気で愛らしくもあるが、何よりも残酷な生き物。……けれど、


「君の笑顔を見てみたかった」


目の前にいる彼女の笑った顔はきっと、何よりも、誰よりも綺麗で暖かいのだろうと思うから。

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