弐佰参拾伍頁─ト或ル訪問者 6─ ページ9
『で、何か用でもあったの?』
「いや、少し様子を見に来ただけ。あとこれを渡したくて」
続いて鞄から出されたのは一つの封筒。
その封筒には様々な音符や筆記体が書かれていた。
後ろで彼女達のやり取りを見ていたナオミが声を上げた。
「まぁ!これってあの有名なオーケストラのチケットなのでは?」
「おぉ、知ってる人が居るとは!ここ、ボクが今所属している音楽団なんです。凱旋公演としてヨコハマが大千秋楽なので、関係者席で取ってあるから善かったら皆さん一緒にどうかなと思いまして」
『ふぅん、それなら聞きに行こうかな』
ヨコハマで結成され、主に外国をメインに演奏を行っている楽団。
一般チケットは毎度抽選となっており、当日販売となるステージから最も離れた後ろの席でもチケットを入手することは困難なほどの知名度を誇っている。
今回の演奏で鈴奈が吹く楽器はクラリネットだが、彼女は他にもトランペット、ホルンなど複数の楽器を担当していた。
皆がそれに注目する中、敦はこっそりと気になっていたことを鈴奈に聞いた。
「あの写真、Aさんには見せないんですか?」
「...ボク的にはそっちの方が都合が善いんだよね。ま、特務課が教えちゃったみたいだからこれはもうただの自己満足なんだけど。この事、あの子に伝えたら今度は優しくしないよ?」
その時、敦ははっきりと理解した。
彼女もAと同じ側の人間だと。
似た者同士と云えば響きは可愛らしいが、それでは補えないほどの深さを抱えていた。
「それじゃあまたね。ボクこの公演が終わったら暫く日本にいる予定だから。気軽な連絡待ってるよ〜」
鈴奈は笑顔で手を振り、探偵社を後にする。
あっかんべーと最後に誰かを侮蔑して。
平穏を取り戻した社内を見渡し、国木田は静かに驚いていた。
あんなにも素早く動き攻撃を避けられていたにも関わらず、照明や観葉植物など倒れた物は一つとして無く、机の上にあった書類すらも床に落ちていることはなかった。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時