PRESTO！【ars M.A】 (ページ30)

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30.幸せな人。ページ30

「ねむー...」

朝から本社で会議があるから、いつもより早い時間に家を出て駅に着く。

目をこすりながらホームに降りると、翔ちゃんが向かいのホームに居る自分の彼女を見てニコニコ。

相変わらず仲良しで良いなぁ。

毎朝同じ時間の同じ駅、向かい合わせたホームを使ってる翔ちゃんと彼女。

ここで出会って、恋に堕ちた二人。

トロトロにデレてる翔ちゃん見てると、ホント腹立つ位に羨ましい。

けど、同時に微笑ましいんだ。
翔ちゃん、俺まで幸せになれるような顔してんだもん。

「おはよ、翔ちゃん！」
「うっ...わっ！」

背後から近付いて翔ちゃんの膝の裏に自分の膝をぶつける。

その拍子に翔ちゃんの身体がガクンと落ちそうになって、慌ててその腕を引っ張った。

「アハッ！ごめーん！」
「雅紀...朝から何やってんの...？」
「ヒザカックン」

ガキかよ...って、翔ちゃんが睨むってよりは呆れた顔する。

「おはよ、翔ちゃん」
「はいはい、おはよう」

向かいのホームにいる翔ちゃんの彼女にも「おはよー」って口パクしながら手を振る。

翔ちゃんのオシャレな彼女が、笑いが止まらないって感じで俺に手を振り返した。

「めっちゃ笑われてる...」
「ヒザカックンをまともに受けた翔ちゃんが面白かったんだね」
「...俺はカッコイイ彼氏にはなれないんだなぁ...」
「顔がカッコイイんだから、もー良いでしょ？贅沢言わないのっ！」

きっとそんな翔ちゃんが好きなんだから。

あそこで笑い過ぎて周りからちょっと変な目で見られちゃってる女の子はさ。

職場の最寄り駅が同じ俺と翔ちゃんは、俺が早出の日は一緒に通勤してる。

「じゃあ、行ってらっしゃい！翔ちゃん！」
「雅紀もなー」

けど駅を出ると、俺達が向かう方向は真逆。

翔ちゃんはでっかいビルが建ち並ぶビジネス街に軽く手を挙げて歩いてった。

カッコイイ翔ちゃんの後ろ姿を見送って、俺は賑やかな繁華街の方に歩き出す。

翔ちゃん、明日デートだって言ってたなぁ。
良いなぁ、俺もデートしたいなぁ。

ちょっと勇気...出してみる...？

そんな事を考えてた俺に会議で突き付けられたのは

「...あ、買い付け...ですか」

来週から海外出張ってゆー要請だった。

今までは結構出張好きだったけど、今回はちょっと憂鬱。

だって...

「帰国はバレンタインの朝かぁ...」

俺、結局『チョコちょーだい』も言えないまんまだってば...。