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「ここまでが、僕の前世の記憶です」
少年は静かに笑って話を終える。俺は思っていたよりも冷静に、少年の話したことが腑に落ちた気がした。
「あ、そうそう、ネタバレがまだでしたね」
少年は思い出したかのように顔を明るくしてまたふふっと笑う。目を瞑って、息を吸い込み、次に出された言葉、
「下宿するときに使った偽名…確か……」
「東郷…でしたっけ」
俺の背中は凍りついた。
「彼、死刑で死ぬ最後の最後、なんて言ったと思います?」
体感温度がみるみる下がっていく。嫌だ。もう聞きたくない。あの人の話だと思った瞬間少年の声がよく聞こえない。体が震えて、目には涙が溜まっていく。息も浅い。それほどトラウマになったいたんだ。俺の体は、これほどまであの男の人に恐怖を植え付けられていたのか。
ただ、次に発された少年の言葉は、僕の頭の中にすうっと入ってきた。
「ごめんな、おそ松」
出かけた涙が引っ込んだ。震えた体がピタリと止まった。酸素が十分なまでに肺に届く。
「大の大人が言うんですよ、泣きながら、死ぬことへの恐怖でではなく、子供への罪悪感で泣いて
ごめん、怖かったよな、また会えないのかな、あって謝りたい、謝ることさえ許されないのか、来世で、来世では絶対、絶対に…
まあこれは言わなかったですけど、彼は死ぬ間際まで、おそ松さんの事を想って…」
「嘘だ」
思ってもないことが自分の口から出た。なんでだよ、もっと他にあるだろ、なんか…「良かった」とか、なんで嘘だとか言っちゃうんだよ。
そんな俺の心とは裏腹に言葉だけが先走る。
「んはずねぇだろ、だっておじさんは俺にこんなに植え付けるまで殴って蹴って包丁突きつけて脅して…」
「捕まった瞬間われに返ったんです。真人間だった頃の自分に返ったんです。彼の願いを神様は随分無理に叶えたものですね。丁度二年前でしたっけ、彼の記憶が急に僕の脳に入ってきたの。自分の記憶と彼の記憶が混ざってパニックになって、最後なんかぶっ倒れて病院送り、今じゃ入院生活…でも、もうそろそろ彼の記憶はなくなるかな」
自分の頭に手を当てて目を瞑る少年。なんで記憶消えんの?って思ったけど、俺に謝りたいことを伝えたらもうそれで良いのかと思ったら案外ストンと腑に落ちた。
…東郷さんの記憶が消える前に、僕からも。
「東郷さん、俺アンタのこと怖がってたけど、嫌いじゃなかったよ」
少年の目は開かれる。あれ、なんかさっきと雰囲気が……
「俺もお前のこと嫌いじゃなかったよ、ごめんな……ありがとう」
“東郷さん”は嘘偽りない笑顔でそう言って、眠りについた。もう二度と覚めることはない、夢を見に、その目を閉じた。
「この子に迷惑かけて…この子にも謝ってから逝きなよね…わざわざ謝りに来させてごめんね、ありがとう」
俺は流れた涙を少年の目が開かれる前に拭った。
少年の目が、少し開く。
「あれ、おそ松さん…泣いたんですか?」
「ははっ、やっぱり拭いきれてなかった?」
「……“彼”に何か言われたんです?」
笑って話す少年の表情はさっき“東郷さん”が見せてたものよりもずっと子供らしい。
「あれ、記憶ないんじゃ…?」
「彼の記憶はもう消えました。でも彼が僕の脳にいたことは忘れてませんから」
「あーそゆこと…もうどんな記憶も覚えてねぇの?」
「…彼が裕福な家の生まれとか、途中から強盗になったこととかしか分かんないですね、彼の感情みたいなものは一つも…あ、おそ松さんに向けてのが、でも……」
「……?」
少年はニヤリと俺がよく悪戯をしてた時のように笑った。流石少年も子供だ。
「これは教えてあげません!」
口の前に人差し指を当てて歯を見せる少年。その仕草はもう完璧に子供のものだ。東郷さんの記憶がなくなったからだろうか。やけに行動が子供っぽくなった。
「えー教えてよー」
「嫌でーす、ではそろそろ僕は病室に戻りますね!また明日!」
元気よく手を振って笑顔で病室を出ていく少年。廊下から聞こえる鼻声がどんどん小さくなっていく。
…少年の記憶にまで残る東郷さんの感情ね。でも多分、少年はどうせすぐ退院するだろうから、そうなれば俺とも絡まなくなる。少年の記憶から東郷さんの記憶が消えていくだけなんだ。
にしても少年の記憶にお邪魔するなんて全く手のかかるおじさんだ。それに、東郷さんの感情なんか俺の知ったこっちゃないし。
でもなんか少年がしってて俺が知らないってとこが何故かムカついたから、いつかそれが俺に知られ廻ってくるように、窓の外、青い空に向かって呟いた。
「嫌いじゃないどころか大好きだったよバーカ」
殴られて、おどされて、凄く怖くて、トラウマだって植え付けられたけど、それでも俺はあの人に恋をしてしまっていたのだ。多分吊り橋効果なんだろうけど。
東郷さんは俺に対してどう思っていたんだろう。まあ百パーに近い数字で両思いはないだろうな。
俺は気持ちを口に出したからか少し気分が良くなった。目を瞑って鼻歌を奏でる。
涙なんか出ていない、そう、絶対。
少年は静かに笑って話を終える。俺は思っていたよりも冷静に、少年の話したことが腑に落ちた気がした。
「あ、そうそう、ネタバレがまだでしたね」
少年は思い出したかのように顔を明るくしてまたふふっと笑う。目を瞑って、息を吸い込み、次に出された言葉、
「下宿するときに使った偽名…確か……」
「東郷…でしたっけ」
俺の背中は凍りついた。
「彼、死刑で死ぬ最後の最後、なんて言ったと思います?」
体感温度がみるみる下がっていく。嫌だ。もう聞きたくない。あの人の話だと思った瞬間少年の声がよく聞こえない。体が震えて、目には涙が溜まっていく。息も浅い。それほどトラウマになったいたんだ。俺の体は、これほどまであの男の人に恐怖を植え付けられていたのか。
ただ、次に発された少年の言葉は、僕の頭の中にすうっと入ってきた。
「ごめんな、おそ松」
出かけた涙が引っ込んだ。震えた体がピタリと止まった。酸素が十分なまでに肺に届く。
「大の大人が言うんですよ、泣きながら、死ぬことへの恐怖でではなく、子供への罪悪感で泣いて
ごめん、怖かったよな、また会えないのかな、あって謝りたい、謝ることさえ許されないのか、来世で、来世では絶対、絶対に…
まあこれは言わなかったですけど、彼は死ぬ間際まで、おそ松さんの事を想って…」
「嘘だ」
思ってもないことが自分の口から出た。なんでだよ、もっと他にあるだろ、なんか…「良かった」とか、なんで嘘だとか言っちゃうんだよ。
そんな俺の心とは裏腹に言葉だけが先走る。
「んはずねぇだろ、だっておじさんは俺にこんなに植え付けるまで殴って蹴って包丁突きつけて脅して…」
「捕まった瞬間われに返ったんです。真人間だった頃の自分に返ったんです。彼の願いを神様は随分無理に叶えたものですね。丁度二年前でしたっけ、彼の記憶が急に僕の脳に入ってきたの。自分の記憶と彼の記憶が混ざってパニックになって、最後なんかぶっ倒れて病院送り、今じゃ入院生活…でも、もうそろそろ彼の記憶はなくなるかな」
自分の頭に手を当てて目を瞑る少年。なんで記憶消えんの?って思ったけど、俺に謝りたいことを伝えたらもうそれで良いのかと思ったら案外ストンと腑に落ちた。
…東郷さんの記憶が消える前に、僕からも。
「東郷さん、俺アンタのこと怖がってたけど、嫌いじゃなかったよ」
少年の目は開かれる。あれ、なんかさっきと雰囲気が……
「俺もお前のこと嫌いじゃなかったよ、ごめんな……ありがとう」
“東郷さん”は嘘偽りない笑顔でそう言って、眠りについた。もう二度と覚めることはない、夢を見に、その目を閉じた。
「この子に迷惑かけて…この子にも謝ってから逝きなよね…わざわざ謝りに来させてごめんね、ありがとう」
俺は流れた涙を少年の目が開かれる前に拭った。
少年の目が、少し開く。
「あれ、おそ松さん…泣いたんですか?」
「ははっ、やっぱり拭いきれてなかった?」
「……“彼”に何か言われたんです?」
笑って話す少年の表情はさっき“東郷さん”が見せてたものよりもずっと子供らしい。
「あれ、記憶ないんじゃ…?」
「彼の記憶はもう消えました。でも彼が僕の脳にいたことは忘れてませんから」
「あーそゆこと…もうどんな記憶も覚えてねぇの?」
「…彼が裕福な家の生まれとか、途中から強盗になったこととかしか分かんないですね、彼の感情みたいなものは一つも…あ、おそ松さんに向けてのが、でも……」
「……?」
少年はニヤリと俺がよく悪戯をしてた時のように笑った。流石少年も子供だ。
「これは教えてあげません!」
口の前に人差し指を当てて歯を見せる少年。その仕草はもう完璧に子供のものだ。東郷さんの記憶がなくなったからだろうか。やけに行動が子供っぽくなった。
「えー教えてよー」
「嫌でーす、ではそろそろ僕は病室に戻りますね!また明日!」
元気よく手を振って笑顔で病室を出ていく少年。廊下から聞こえる鼻声がどんどん小さくなっていく。
…少年の記憶にまで残る東郷さんの感情ね。でも多分、少年はどうせすぐ退院するだろうから、そうなれば俺とも絡まなくなる。少年の記憶から東郷さんの記憶が消えていくだけなんだ。
にしても少年の記憶にお邪魔するなんて全く手のかかるおじさんだ。それに、東郷さんの感情なんか俺の知ったこっちゃないし。
でもなんか少年がしってて俺が知らないってとこが何故かムカついたから、いつかそれが俺に知られ廻ってくるように、窓の外、青い空に向かって呟いた。
「嫌いじゃないどころか大好きだったよバーカ」
殴られて、おどされて、凄く怖くて、トラウマだって植え付けられたけど、それでも俺はあの人に恋をしてしまっていたのだ。多分吊り橋効果なんだろうけど。
東郷さんは俺に対してどう思っていたんだろう。まあ百パーに近い数字で両思いはないだろうな。
俺は気持ちを口に出したからか少し気分が良くなった。目を瞑って鼻歌を奏でる。
涙なんか出ていない、そう、絶対。
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作成日時:2017年2月5日 1時