呪術廻戦〜貳爪探し〜

2人の願い ページ13

あれは…丁度1ヶ月前の蒸し暑い黄昏時のこと

夏休み真っ只中で暇を持て余していた由梨と私は高校の裏山にある廃屋にいた

廃屋と聞くと､こぢんまりとしたトタン屋根のような物を想像すると思うが…

実際はテニスコート5つ分はありそうな大きな屋敷だ

『ねぇ…もう帰ろうよ 絶対嘘だって…ほら､もう暗くなってきた…』

「大丈夫だって もしガセだったとしてもいい思い出ってことにしよ…あ､あったよ 地下の階段」

私はズンズンと先を歩く由梨の後を追う

長い黒髪､子供が着るには相応しくないブランド物のTシャツ

金持ちの由梨にとっては大したことのない値段なんだろう

まず､こんな汚い場所にブランド物を身につけてくる神経がどうかしてる

『ゲホッ…ホコリっぽい…』

「ほんと 誰も来ないんだろうねぇ」

この裏山を所有していた人の屋敷らしい

家主が死に､遺産相続の争いの果てに手放された哀れな屋敷

取り壊そうとしても何かとトラブルが続いて結局放置されているらしい


この屋敷は今でも家主の帰りを待ち続けている…


入学当初､私達生徒はそう聞かされていた

ハチ公かよ

それと､この屋敷にはもう1つ噂があった

「地下に小さなお社がある そのお社の周りを3度回って2回掌を合わせれば願いが叶う…」

『もう…有り得ないよ』

由梨が此処に来ようと言い出したのはつい2時間ほど前

話の種として､この話題を持ち出した私が馬鹿だったよ…

「もし願いが叶うならさ､Aはどうしたい？」

『願い…』

考えたこともなかった

買いたい物も､やりたい事も…何もない

『…分かんないや』

「そっか､私はね…あっ！ほんとにあったよ！！お社！」

地下の最奥に位置していたお社

ボロボロで今にも壊れそう

部屋は土の地面が剥き出しになっている

『へぇ…誰かが此処を見つけて考えたのかな』

「ちょっと､夢のないこと言わないでよ」

由梨は笑いながらお社の周りを楽しげに歩く

3度回った後､パンッパンッと2回手を叩いた

早い…

「"Aが今よりもずっと幸せに暮らせますように"！」

そう言い､私を振り返ってヘラりと屈託のない笑顔を向ける

『…勿体ないなぁ わざわざこんな所にまで来て…』

私の家庭事情を知っているのは由梨だけ

私も彼女を信頼したからこそ話したんだ

…さてと､私も願い事を…

その時､お社の奥の壁から腐った肉塊のようなモノが顔を出した

汚いドブのような色をした腕が由梨に向かって伸ばされる

『…ッ！！由梨ッ！！！』

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