【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ20)

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18話ページ20

　
　
　
　
結局、寮母さんたちも快諾してくれて、おまけにおにぎりを作るのを手伝ってくれた。

　
　
　
「みんな染谷さんのこと褒めてるわよ。いつ見ても何か仕事してくれてるし、前もっていろんなことを整えて準備してくれるからとても助かるって。
　
あと、自主練にもよく付き合ってくれて本当にありがたいって言ってたわ」
　

　
「ありがとうございます、嬉しいです。

マネージャーとして当然のことだと思ってたので、改めて褒められると照れちゃいますね」
　

　
　
おにぎりを作るのを手伝ってくれた寮母さん、ヤマギワさんはそんな嬉しい話もしてくれた。

　
　
　
部員からの見返りを求めているわけではないけど、やっぱり認められて褒めてもらえると胸が熱くなる。

　
それと同時に安心もした。

　
自分はまだ、ここでの存在価値があるのだと。

　
　

　
梅おにぎりと塩おにぎりの2種類が出来上がり、手伝ってもらったヤマギワさんにお礼を言うと出来立てのおにぎりを乗せたトレーを持って室内練習場に足を進めた。

　
　
「おにぎり出来上がりましたー！」

　
　
練習場全体に聞こえるように声を出すと、おおお！！と野太い歓声が上がる。

　

うまそー！だとか、ありがてえ！などの声が聞こえてきて思わずにやけてしまいそうになるのをグッと堪えた。

　
　
「姉御！俺たちも食って良いんスか？！」

　
　
「もちろん、どうぞ。

あ、沢村くんと降谷くん、アイシングいる？」

「お願いしやす！」

「僕もお願いします」

　
　
　
ダウンをしていたであろう沢村くんと降谷くんもおにぎりに釣られて寄ってきた。可愛い。
　
　
アイシングはダウンが終わる頃合いに作って持って行こう。

　
　

ヤマギワさんと2人で作ったおにぎりはお腹を空かせた球児たちの胃袋に驚くべき速さで収まっていく。

　
　
　
「さんきゅー！染谷！うまかったぜ！」
　
　
　
「姉御！もう一つ食べても良いですか！」

「ダメに決まってんじゃん。先輩差し置いて何個食べる気なの？お前」

亮さんのチョップ、通称小湊チョップを喰らった沢村くんが涙目になって「お兄さーーん！！」と叫ぶ。

　
それを見ていた御幸や春市くんがケタケタと笑い、私も釣られて笑った。

　
　
　
結果的に倉持のことを忘れて一日を過ごせたから御幸には感謝しないとな。

　
　
　
　
後にこれがちょっとした事件の原因になるとは知る由もなく、私は呑気にそう思った。