【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ17)

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15話ページ17

　
　
　
　
　
「姉御！！ちょいとお話があるのですが！！」
　
　
　
　
倉持の初デートが明日に迫った土曜日の練習後。
　
　
　
それはそれはよく通る声で沢村くんに呼び止められた。
　
　
　
　
姉御呼びに関しては諦めることにした。
　
そもそも監督を「ボス」呼びし、亮さんのことを「お兄さん」と呼ぶ沢村くんだ。
　
　
多分呼び方を矯正しても三日後には戻っているだろう。
　
　
　
不毛なことはしない。それが私のポリシー。
　
　
……の、はずだったんだけど現在進行形で不毛な恋に囚われている私とは一体。

　
　
　
「なぁに？大事な話？」
　
　
　
「いえ！！明日、予定がなければ自主練に来て頂ければなと！！」
　
　

「うん……？特に何もないけど……」

　
　
どうして？、と私が訊ねると途端に沢村くんの目が泳ぎ出す。

　
　
　
ふよふよと視線を動かしてチラチラと見る先にはスパイクからトレーニングシューズに靴を履き替える御幸の姿が。

　
　
　
なるほど、そういうことか。
　
　
何も予定を入れずぼんやり過ごすと私が倉持のことを考えてしまってやるせない気になることを気遣ってくれたのだろう。
　
　
　
御幸一也という男は一見他人に冷淡に見えても、一度自分の懐の内に入れた相手に対しては意外と世話焼きなのだ。

　
　
そして自分から言い出すのは癪だし恥ずかしいから沢村くんを派遣した、ってところだろう。
　
　
　
　

　
御幸………君のそういう不器用なところ、私とても好きだよ。ありがとう。

　
　
そして大方、御幸に
　
「俺が言ってたってことは秘密にしろよ、じゃないと明日球受けねぇから♡」

などと可哀想に脅されたであろう(しかし残念ながらバレバレだ)沢村くん。

ありがとう。君の可愛さで滅入ってた気持ちが浮上してきたよ。
　
　
　
　

さすがに私まで意地悪をすると沢村くんが可哀想なので、素直に了承することにした。
　
　
　
　
「分かった、じゃあお邪魔させてもらうね」
　
　
　
　
「ほんとですか！！ありがとうごぜぇやす！！」
　
　
　
　
これで目一杯球受けてもらうぜ御幸一也！！！と叫び、勇んで御幸の元に報告をしに行ったであろう沢村くんの背中を見届けて私も帰り支度を始めた。

　
　
　
　