【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ13)

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11話ページ13

　
　
　

　
「よろしくお願いします！」

　

「はーい、よろしくね」

　
相変わらず木製バットを持った春市くんはティーボールの入ったカゴに跨るようにして座る私に礼儀正しくお辞儀をした。

　
可愛い。めちゃくちゃ可愛い。弟にしたい。でもそう申し出たら亮さんに「ダメに決まってんじゃん」って即答される未来が見える。

　
　
　

　
さて、準備も万端だし始めようかなとティーボールに手を伸ばした時だった。

「小湊、俺も混ざっていいか？」

「倉持先輩？！」

私の横にいつの間にか立っていたのは、倉持で
春市くんはびっくりしたような声を上げている。

そりゃそうだ、だって倉持は彼女を駅まで送るはずで自主練には付き合えないって事前に春市くんに言っていたのだから。

　
　
　

「僕は良いですけど、彼女さんは良いんですか？」

「あー、なんか部活長引いたらしくて遅れるらしいからよ」

　

「そうなんですね。染谷先輩は大丈夫ですか？」

「えっ、あー…いや、倉持はちょっと」

「あ？どういう意味だよテメェ」

　
一応女子だから御幸みたいに胸倉掴まれたり沢村くんみたいに関節技決められたりはしないけど、かわりに元々鋭い目つきを更に鋭くさせて低い声で凄まれた。

　

　
　

　
「いやー、はは……あ、ほら、あれじゃない？倉持の彼女さん」

　
　
実はこれ以上関わったら諦めがつかなくなるから避けるようにしてます、とは言えなかった。

　
　
どう言い訳をしようか悩んでいると、土手からグランドに通じる階段を降りる見慣れない女の子の姿が。

　
　
内村さんだろう。

　
　
階段の方に顔を向けると、それに続いて倉持もその方向を見た。

　
　

そして何か言いたげに私を数秒見つめた後、春市くんに「悪い、邪魔したな」と声をかけてグランドを後にした。

　
　
　
　
「さ、始めよっか」

　
　
「は、はい！」

倉持の背中を見送る春市くんに話しかけると、春市くんも慌ててバットを構える。

　
　

……今のはちょっと、あからさま過ぎたよねと反省しながら私はティーを上げるのであった。
　