【◇A】にがくて、にがい。【倉持洋一】 (ページ8)

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6話ページ8

　
　
　
　
　
　
「染谷」

全体練習が終わり、あとは自主練となった午後八時前。

私は珍しく亮さんに呼び止められていた。

小湊亮介さん。

身長は私とそんなに変わらないけどガッツ溢れるプレーと何処となく湧き出る威圧感でその小さな身体を二倍くらい大きく見せる、個人的に尊敬しているけど同時に恐れてもいる先輩だ。

「なんですか？」

「この後予定ないなら自主練付き合ってよ」

「えっ…良いですけど、珍しいですね」

「最近なんか守備の調子悪いんだよね。バッティングは好調なんだけど」

嘘だ。

この人、何か企んでいる。

だって今日のノックもエラーは一つもなかった。

ゲッツーも華麗に決めていたし、バックホームも問題なかった。

ここ最近の試合でもエラーは一つもない。

「…何？俺が相手だと嫌なの？この前は春市の守備練見てたのにね？」

「いえ！滅相もない！！喜んで！！」

「そう来なくちゃね。純、先に寮戻ってて良いよ」

あ、確実に私に何か個人的な用があるんだな。

じゃないと純さんをわざわざ先に帰らせたりなんてしない。

余程の機密事項なのだろうか。

守備練習に付き合え、と言っていたのに亮さんが私を連れて向かったのはグランドに隣接する土手。

やっぱり何か話があるんだな。

「座らなよ」と言った亮さんの隣に体操座りをすると、亮さんは切り出した。

「練習前、泣いてたけど何かあったの？」

　