十一話/ 無理解の先に ページ11
「ーーろ!ーきろ!」
乾いた音が響いた。
音に反応し目を開ける。職員はそんなAを取り囲み、蔑んだ視線を送っていた。
「ーー?」
不意に頬が熱くなった。
やがてじわじわと熱さが痛みに変わっていき、そこで漸く頬を叩かれたのだと理解する。
「ーーーー」
Aは自分を遥か高く見下ろす男を睨みつけた。
だが、男はそんな怒りの視線に怯むことなく顔を近づけてくる。
「何だ其の目は」
聞いた者の心を凍らせるどこまでも冷たい声だった。
「ーーーー」
負けじとその男を睨みつけるAの頬に、再度衝撃。
「い゛……っ」
ーー綺麗な顔に跡が残ったらどうする。
Aは熱を持ち、痛みを主張する頬を押さえようと手を伸ばそうとした。
だがその肝心の手が動かない。
当然だ。Aの細い手首は御丁寧に頑丈そうな縄に縛られているのだから。
自由に動かせないのは当然だった。
そんな、痛みに呻くAに見向きもせず男は立ち上がり、云った。
「お前の所為だ。この穀潰しがーー」
男が何を云っているのか、分からなかった。
だってAにはそんな事を云われる筋合いなんて無い筈なのだ。そんな生き方はしていない筈。
ーー否、あった。確かに、心当たりがあった。
あの時Aは異能をーー、それでーー
ここで漸く小一時間程前の記憶を思い出したAは慌てて自分の手元を見た。
「あ、れ?」
見れば、Aの左手は人間のものに戻っており、動物の手ではなくなっていた。
だとしたら、あれは全部夢だったのだろうか。
「出て行け穀潰し!!」
ーー否、そうでないことは皮肉にも周りの反応が証明してくれていた。
「お前もあの穀潰しと同様、何処ぞで野垂れ死にでもした方が世間様の為よ!!」
ーーあの、穀潰し?誰のことを云っているのだろうか。全く見当もつかない。
「痛…やめ、やめて!」
Aが声を上げて叫んだ。
状況を把握しようと必死に頭を回転させるAの髪を職員が突然後ろに引っ張ったのだ。
鈍い痛みが頭を中心に全身に広がっていく。
「ーーん、く……や、め」
後ろの扉が音を立てて開き、虫の鳴き声が、自動車の音が、ズルズルと引き摺られるAの鼓膜を震わせた。
そこで漸く手を離してもらったAは音のする方を反射的に振り向く。
「え……」
ーーそこには一週間ぶりの外の世界が広がっていた。
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時