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玄関には、沢山の靴が並んでいた。話し声が聞こえてくる。建物の香りが鼻をくすぐって思わず息を呑んだ。5年ぶりの、もう帰れないと思っていた私のあるべき所。5年前の日々が走馬灯のように流れ込んでくる。賑やかな場所だった。

廊下は少し軋んでいる。話し声のする方、記憶の中の居間である場所に迅の後を追って足を進め、ドアの前に立つ。耳に入ってくる懐かしい声は、きっと桐絵ちゃんの声だ。

「開けるよ」

優しく微笑んだ迅に私は頷いて返事をした。喉奥が震えそうになるのを堪えていた。迅はゆっくりと扉を開ける。ごくり、と喉がなる。



「よぉ、みんな。揃ってるね」

「ちょっと迅、遅いじゃな……」

迅を咎めるような声は途中で途切れ、一瞬、空気が止まる。

「え、……え、?うそ……」

記憶の頃より、成長した桐絵ちゃんの姿が私を捉えていた。綺麗な瞳を大きく見開いて口はぽっかりと開いていた。

「桐絵ちゃん、ただいま」

私を見つめる桐絵ちゃんの目にはどんどん涙が溜まっていく。瞳が揺れて、桐絵ちゃんは唇を噛み締めて次の瞬間、私は桐絵ちゃんに抱きしめられていた。

「Aさん、ほんとに?ほんとにAさん?」

「うん、本当だよ」

私の胸元に顔を埋める桐絵ちゃんを抱き締め返して、ゆっくりと頭を撫でた。苦しいくらいにぎゅうぎゅうと抱きつく桐絵ちゃんにどれだけ心配をかけさせたのだろうと胸がいっぱいになっていく。

「会いたかった……!」

涙をためた桐絵ちゃんの瞳に、思わず自分の視界も滲んでいく。

「A……」

太くて、男らしい声に名前を呼ばれる。この声は、

「レイジさん……」

「A、戻ってきたのか……?」

「はい、ただいま戻りました」

レイジさんはゆっくりと私たちに近づいて、桐絵ちゃんごと私たちを優しく抱きしめた。

「……よく戻ってきた」

喉奥が熱くなって、滲んだ瞳はぼうっと崩れていく。頬に涙が伝って、私は懐かしさと愛おしさに包まれていた。

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- なぎささん» なぎささんコメントありがとうございます!好きと言って頂けるだけでありがたいのに5回も読み直して頂けるなんて恐縮です…!本当に本当にありがとうございます!嬉しすぎて泣きそうです…不定期更新でご迷惑お掛けしますがこれからも頑張りますね! (2022年10月1日 20時) (レス) @page49 id: 79e67df0bc (このIDを非表示/違反報告)
なぎさ(プロフ) - 更新ありがとうございます!この小説が好きすぎて5回は読み直しました...これからも応援しております🥳ご無理のない程度に頑張ってください! (2022年9月30日 20時) (レス) @page48 id: 0fe7f18098 (このIDを非表示/違反報告)
- 璃々さん» コメントありがとうございます!手探りで進めているようなお話ですが面白いと言って頂けて本当に嬉しいです!続きも待ってくださるなんて本当に嬉しすぎて転げ回っております…本当に励みになりました!不定期更新で申し訳ないですがこれからも更新頑張りますね! (2022年7月30日 0時) (レス) id: e6b083c4a6 (このIDを非表示/違反報告)
璃々(プロフ) - コメント失礼します!近界から帰ってくるっていう新しいタイプのお話ですごく面白いです!!!夢主の実力がどのくらいかとかほんとに気になって仕方ないです…続き楽しみに待ってます!頑張ってください!!! (2022年7月29日 19時) (レス) @page31 id: e950c5fcca (このIDを非表示/違反報告)
- ゆん。さん» コメントありがとうございます!世界観にハマるだなんてとてもとても嬉しいお言葉ありがとうございます!私もゆん。様のお言葉に励まされ飛び上がって喜んでおります…!これからもちょこちょこ更新しますのでどうぞよろしくお願い致します! (2022年7月15日 12時) (レス) id: d84ec32568 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年6月30日 2時

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