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「ザキももらったんだ」
「ああ、大事過ぎて食べられねぇ……」
かったるい授業を終えて部室に行くと、原がパンを咥えてスマホをいじっていた。いびつな形をした原のパンは、おそらく花園が草をイメージして作ったのだろう。発想が独創的すぎる。
『山崎、手伝ってくれてありがとう』
あの地獄のケミカルクッキングから一晩明け、花園が手渡してきたのは昨日作ったパンだった。
丁寧に可愛らしくラッピングまでしてあって、そこで俺は花園が女子だということを久しぶりに思い出した。しかし、俺は花園がオーブンを見つめながら「C6H12O6 → 2 C2H5OH + 2 CO2…」と呟いていたのも同時に思い出して、鳥肌が立った。
カバンからそれを取り出して、透明なビニールの袋に入ったそれをもう一度見つめる。
花園曰く山崎の顔らしいが、あのゴリラのような顔はパンが膨らんだお陰か、殴られて膨れた顔のようだった。
パンで人の将来を暗示するの、本当にやめてほしい。
俺が花園の闇に戦慄していると、花宮がいつものように荒くドアを開けて部室に入ってくる。
その手には、いつも通りカバンと、そして、ピンク色のリボンでラッピングされた袋。
「あれあれ〜?花宮、それどうしたの?告白?彼女から?」
それに気がついた腹は、全てを知っていながらいじり倒す。お前本当に性格悪い。
「あ”?うるせぇよバァカ、そんなんじゃねぇ、死にてぇのか」
対する花宮はというと、こちらもやはり悪童とか呼ばれているだけあって流石の口の悪さだった。
花園と話してる時のアレはなんなんだ、俺たちにもいい子に誠実にしてくれねぇかな……。
花宮は手際よく練習着に着替えると、例のラッピングを開けてパンを取り出した。いびつな形をしたそれは、花の形にみえなくもない。
「……不味くはねぇ」
花宮はそう一言言い放つと、スタスタと部室を出て行ってしまう。
原はそれを一瞥して、ふぅん、と口元の口角を上げた。それが何を意味するのか、俺にも分からない。
俺はふと、昨日の花園の姿を思い出した。本来の目的は消え失せ、途中から何故か花園によるバスケ部形成大会が始まっていた。
花宮のことやけに丁寧に作っていると思ったら、こういうことか。
思い出して少し暖かな気分になっていると、原も何か思うところがあったのか口を開く。
「い、言えない……俺の口からは、あんな嬉しそうな花宮に本当は別の男のために作り始めたパンだなんて、俺には言えない…」
「お前本当にそういう所だぞ原」
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漫画・声優・アニメ・ゲーム大好きリカント(夜李)(プロフ) - 面白いです!更新待ってます! (2020年10月20日 18時) (レス) id: 7e6458e2b5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずりは(プロフ) - 征羅さん» ありがとうございます。面白いと思っていただけるように意識してるので、そう言っていただけるのはとても嬉しいです。返信遅くなってしまってごめんなさい、これからもよろしくお願いします。 (2020年1月26日 19時) (レス) id: 718a0c6063 (このIDを非表示/違反報告)
征羅(プロフ) - すごく面白いです。毎回爆笑してます。あからさまに笑いを狙ってないような感じが好きです。今まで俺が見た小説とは違う面白さで、すっかりハマってしまいました!更新頑張ってください。 (2019年10月1日 0時) (レス) id: 44f8e3471a (このIDを非表示/違反報告)
ゆずりは(プロフ) - みかんさん» ありがとうございます。受験生なので更新が遅くなってしまいますが、頑張りたいと思います。 (2019年9月23日 20時) (レス) id: 718a0c6063 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 面白いですら楽しく読ませてもらってます。更新頑張ってください! (2019年8月20日 16時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずりは | 作成日時:2019年5月4日 15時