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私は伊地知さんの言葉を遮った。
「違う、よね?人いないなら、仕方ないわけじゃ、ない。呪術師が足りないのなら、なおさら、一般人の救助なんて、させるべきじゃない。」
伏黒君も、野薔薇も、虎杖君も、呪術師としての才能と素質がある。それを殺してしまうことの方がよっぽど痛手だ。
「もう少しで、野薔薇、死んでた。伏黒君と、虎杖君は、今、死んだかも。一年生が全滅。そうなる可能性、わからないくらい、あなたも、あなたの上も、馬鹿じゃない。」
貴方たちは私たちを捨て駒にするつもりだったのだろう。だからこそ、不可解だ。
「私は、気になる、のです。」
私は伊地知さんの背中を見つめた。彼は臆病だ。臆病すぎて、私たちに害を与えられないほどに。でも彼は同時に、私たちを捨て駒にした。
「あなたは、どういう気持ちで、私たちに、「お気をつけて」って、言ったの、ですか?」
ルームミラー越しに、私の目と伊地知さんの目が合う。瞬間、伊地知さんは顔を青ざめさせ、息を止めた。
キキッと嫌な高音を立てて車が停車する。その反動で私の上半身が大きく揺れた。眠っている野薔薇の体も大きく揺れた。
なんとか体制を立て直し顔を上げると、伊地知さんはハンドルを強く握りしめ、下を向いたまま震えていた。
「も、もも、もうしわ、け、ご、ざいません。」
「……どうして、謝る?私、怒ってない。私、ただ、知りたいだけ。あなたの、心を。」
「申し訳ございません。申し訳ございません!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
……うるさいなぁ。
私は背中を座席に預け、上を向いた。伊地知さんはまだ、ごめんなさい、ごめんなさい、と謝罪を繰り返していた。
伊地知さんは私の問いにきちんと答えてくれなかった。けれど、この人に“悪意”がなかったことはわかった。この人は多分、本気で“お気をつけて”と言っていた。と、すれば、彼は矛盾している。つまり、彼に矛盾をもたらした人間がいるのだ。
「私、この学校、嫌い、かも。」
私はため息を吐いた。窓の外を眺めれば、ここはまだ避難区域の範囲内だ。
「ねえ、謝るの、いいから。早く、病院。」
「は、はい。申し訳ございません。」
彼は完全に縮み上がっていた。もうこれ以上は私が何を言っても謝罪が繰り返されるだけだろう。失敗したなぁ、と私は心の中で呟いた。
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柑橘(プロフ) - 尊都さん» ご指摘ありがとうございます!変更させていただきました。またなにかお気づきの点があればコメントください。 (2020年11月26日 3時) (レス) id: 3b878783b1 (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 稔米さん» ありがとうございます!五条先生とはギスギスして欲しいのでこのまま緩くやっていきたいです。 (2020年11月26日 3時) (レス) id: 3b878783b1 (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - わかたくさん» ありがとうございます。更新頑張ります! (2020年11月26日 3時) (レス) id: 3b878783b1 (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 五条先生ってみんな下の名前じゃありませんでした? (2020年11月26日 2時) (レス) id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
稔米 - 好き過ぎます!なんかこれから色んな事実が発覚してくのかなーと楽しみにしておりマス!私は五条さんとの絡みが好きです!なんか甘々じゃない感じの…w (2020年11月25日 22時) (レス) id: 861890d0d1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月24日 1時