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116松 ページ25

《とりあえず分かった。一応父さん達にも伝えておくね》

「うん、ありがと」

《…一松兄さん》

「何?十四松」

《絶対Aちゃんの事、守ってあげてね》

「…、分かってる」



通話を切って、握りしめたままだった壊れた盗聴器をゴミ箱の底に押し込んで他のゴミで見えないようにしておいた。

……今考えると、あの盗聴器はAの爺さん婆さんが生きていた頃に付けられたものかもしれない。それならAの貯金事情を把握できていてもおかしくはないだろうし、Aの大体の一日のスケジュールだって知っているかもしれない。

……これが父親が実の娘にする事なのだろうか…。こういうのを目の当たりにすると、俺達六つ子は両親に恵まれていたんだなと痛感する。

 

「(………Aは、何も悪くなんてないのに…)」

 

人生の中で良い出来事と悪い出来事はプラスマイナスで起こるというのが俺の自論だ。なのにAの人生はマイナス方面な事ばかり。母親との楽しい思い出や、近所の人達に助けられた経験はあるだろう。でもそれを軽く上回るくらい酷な出来事が多すぎる。

だから、それと同等になるくらいの幸福をAは掴んでいい筈なんだ。それを否定する奴がいるなら俺がそいつを否定してやる。

やっと掴めるんだ。やっと掴もうとしてくれてるんだ。それを邪魔しようってんなら誰だろうと容赦はしない…。

 

「一松さん」

「えぁッ!?え、A、いつから…?」

「たった今上がった所です。今夜は暑いのでアイスでもどうかなって思って持ってきたんですけど」

「……こんな時間に食ったら」

「それは言わないお約束です!」

 

二本で一つのチューブ型コーヒーアイスの片方を貰い口にする。クソ甘い。それを心底うまそうに吸って食べるAの顔は幸せが滲み出ている。

 

「(………絶対、守ってやる…)」



アイスを持った手を強く握りしめる。冷たかったけれど、俺の手の体温で徐々に溶け始めてきたようでジュクリと音を立てた。







――――――…







大体の話は聞いた。というより、聞こえてしまった。



お風呂を上がってアイスを一松さんにもお裾分けしようと思い客間に立ち寄った際に聞こえた言葉は盗聴器。



一松さんは聞かれたくないらしいので私もそういうフリをしておいたけど、やっぱり少しきついものがある。



「(……どうして…)」



自分の気持ちを押し込むように、グッとアイスを強く握りしめた。

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(プロフ) - ことみさん» ことみさんコメントありがとうございます!イラストをお褒めいただき嬉しいです。これからも励んでいきます!応援ありがとうございます! (2019年7月27日 22時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
ことみ(プロフ) - 絵が上手過ぎて脱糞する。。。  更新、頑張ってください!一気読みしてきました♪タイトル見た瞬間あ、これ、神作品やわ。って思ってw応援してます! (2019年7月27日 5時) (レス) id: 58ea8aaecc (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - シヴァさん» シヴァさんコメントありがとうございます!イラストを誉めていただけると本当に嬉しいです!まさに生きる糧になります! (2019年7月5日 17時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
シヴァ - 絵がすっごく上手くてビックリしました!!絵があると想像しやすくてとっても面白いです!! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 39ad7af53b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 三月の糸姫さんコメントありがとうございます!イラストたまにしか載せられませんけど、お褒めいただいてとても励みになります!これからも更新頑張っていきます! (2019年5月9日 0時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年1月14日 22時

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