110松 ページ19
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「そうかー。んじゃあ暫くは兄ちゃんのとこさ行くんか」
「はい、とりあえずはですけど」
「おうおう、兎に角一先ずは安心だっぺなー」
Aの説得から一夜明け、事のあらましを山中さんに伝えておきたいというAの要望で今は山中家を訪問中。
薄い曇り空の元、玄関で異世界というワードを伏せつつ大まかな説明を終えると、爺さんは心底安心した様に笑顔を溢した。
「いつ行くかは決まっとるんか?」
「大体一週間後には」
「そうけー、けんどなんかあったらいつでも連絡してけろ。兄ちゃんと喧嘩とかになったら七代祟ったるけん」
「洒落にならなそうで怖い」
「ふふ、山中さんはまだまだ元気なんですから大丈夫ですよ」
「当たり前だっぺー」
ケラケラ笑う爺さんに吊られて俺達も笑い合った。
昨日とは打って変わってどこか吹っ切れた表情を見せるAは、もう大丈夫そうだ。爺さんからはAを連れていくって言ったら微妙な反応をされるんじゃないかと思ってたけど、快く了承を得る事ができて良かった。
こんなにも満月の日を待ち遠しく思ったのは久々かもしれない。
「んじゃあ、ここ離れる前にあれには行かんのか?」
「え、あれって?」
「七夕祭りさー。ちょうど一週間後は七夕だっぺよ」
「あぁ、そういえばそうでしたね」
毎年この時期になると近くの町で開催されているらしい。Aも学生時代から必ず家族と行っていたとの事だけど、一人になってからも山中家の人達に誘われて参加していたらしい。
……多分、Aの事を思って連れ出していたのかもしれない…。
「引っ越しとかで忙しくて行けねぇか?」
「…………荷物の運び出しとかもありますし…、まだなんとも…」
「行けなくはないんじゃないの?祭りが終わった後でも月さえ出てれば」
「月ぃ?」
「あいやなんでも…」
「……でもそれだと、向こうで待ってくださってる皆さんを遅くまで待たせてしまいます」
……まだ他人を優先する癖は健在のようだ。いや社会的にはいい事なんだろうけど。
溜息を吐いてAの頭をわしゃわしゃしてやれば、Aは驚いて短い悲鳴を上げた。
「わっ、いきなり何するんですか!?」
「多少遅くなっても問題ないでしょ。細かい事は気にしないで行きたいなら素直にそう言えばいいじゃん」
「一松さんに素直になれって言われても説得力ありませ…、うわぁぁ髪を更にわしゃわしゃしないで下さい!」
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渚(プロフ) - ことみさん» ことみさんコメントありがとうございます!イラストをお褒めいただき嬉しいです。これからも励んでいきます!応援ありがとうございます! (2019年7月27日 22時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
ことみ(プロフ) - 絵が上手過ぎて脱糞する。。。 更新、頑張ってください!一気読みしてきました♪タイトル見た瞬間あ、これ、神作品やわ。って思ってw応援してます! (2019年7月27日 5時) (レス) id: 58ea8aaecc (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - シヴァさん» シヴァさんコメントありがとうございます!イラストを誉めていただけると本当に嬉しいです!まさに生きる糧になります! (2019年7月5日 17時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
シヴァ - 絵がすっごく上手くてビックリしました!!絵があると想像しやすくてとっても面白いです!! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 39ad7af53b (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - 三月の糸姫さんコメントありがとうございます!イラストたまにしか載せられませんけど、お褒めいただいてとても励みになります!これからも更新頑張っていきます! (2019年5月9日 0時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渚 | 作成日時:2019年1月14日 22時