【おそ松さん】ガラスの猫は銀の月に落ちる４

１０８松 ページ17

AがA自身の為に動けないのなら、Aを想っている人間の為に幸せになれと言えば納得してくれるのではないかと思いまくし立ててみたが、ポカンとしてて効果があるのか無いのか分からない反応をしている。

もしやまだ駄目なのかとまた説得の言葉を頭の中で巡らせようとした時、Aは控えめに声を掛けてきた。

　

「…一松さんの思う幸せのあり方って、どういうものですか？」

　

…そう来るか。
自分で言っておいてなんだけど俺もあんまり考えた事が無かったから少しの間考えた。ちょっと悩んだけど、こういうのはあまり時間を掛けるべきじゃないと思ったから簡単に纏めて、Aが納得してくれるかは分からないけど自分なりの幸福論を述べてみた。

　

「…俺もあんまり考えた事無かったけど、周りに自分を思ってくれてる人がいればそれで幸せかな？あと金があればなお良し。父さんと母さん、ついでにウザったいけど兄弟もいるし、ニートだけどぶっちゃけ今のままでも苦に思ってないし。金が無いのは難点だけど、案外いままでそれでどうにかなってたし。

その邪魔になるような奴がいるなら徹底的に潰すし、他人はいい様に利用する。それで他人に嫌われようがそいつ等に好かれたいなんて思わないし、そもそも全ての人間に好かれるなんて不可能な訳だから、せめて自分を思ってくれてる人の為に生きていたいし力になりたい。そうやって現状維持できていれば俺は幸せだと思う。

…でもこれはあくまで俺の考えだから、Aの幸せの参考にはならないと思うよ。自分の幸せは自分にしか分からないし作れないんだから。あ、なんか今の台詞中二っぽい恥ずっ」

「……」



自分の台詞の臭さに今さら羞恥心を抱いたけれど、まぁ言いたい事は言えたと思うから後悔はない、多分。適当に言ってみたけどどうだろうか。Aが納得できる答えは出せただろうか。

シンと静まり返った部屋の中で、スマホから「えぇ、正直過ぎ…」とか「引かれてないかこれ…」等と兄弟達の声が微かに聞こえてくる。


と、今まで縮こまっていたAの口から突然空気が小刻みに漏れ始めた。

　

「A？」

「…ぷ…ふふ…、い、一松さん正直。それに結構酷い…、ふふ…」

　

……笑っている。

まだ顔は俯きがちだけど、その口は明らかに弧を描いていた。

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