『コミュニケーション2』 ページ6
「Aに…何かあったんですか…?」
「まぁねぇ。だけどこれは私じゃなくてAちゃん自身に聞かねぇと」
ぷらいばしーっちゅうもんがあるけんね〜、と神妙な面持ちで言うばあさんを見ながら、Aの事を考える。
近所の人が気になる程の“おっかない目”とは一体…。
凄く気になるけど、無理に彼女の領域に踏み込むのは気が引ける。
古傷を抉ろうとすれば、その傷はまた痛み出す。
その痛みを知っているから…。
「おめぇさん」
「えっ、…は、はい」
「名前はなんてぇの?」
「……一松…です」
なんとなく、空気が変わったような気がした。
「一松君、Aちゃんはね、今はあぁして元気にやってっけど、ここに越してきた時はずっと何かに怯えとったのよ。人前では見せねぇけど、今もそうだ」
「…」
「ほとんど外に出ねぇもんだから、誰にも気づかれねぇでフワッと消えちまうんじゃないかって思えてねぇ」
「…」
「だからいつも誰かがAちゃん家さ行って、ちゃんと元気にやってっか見てんのよ。あの子のとこに彼氏が来たって聞いた時は、そりゃあ安心したさぁ」
「…」
「Aちゃんの事、大事にしてやっておくれな」
「……」
大事になんて…できない…。
だって俺は、この世界の人間じゃないから…。
いつかは帰る事になるから…。
ずっとそばにはいられない。
分かってはいても、言葉に出来る筈もなくて…。
結局返事が出来ないまま、俺よりも猫背なばあさんの背中の後に続いて歩いたのだった。
―――…
「一松さんお帰りなさい!」
「…ただいま」
「?…どうかしましたか?」
「……別に…」
何気ないその笑顔の裏に、今日、闇がある事を知った。
どんな闇かは解らない。一人でひっそりと…、気付かれないようにそれに怯えてる…。
…だけど…それを知ったところで、俺に何が出来るというのだろうか…?
あと数週間で彼女の元を去るこの俺に…。
逆に傷つけてしまわないか…。重荷になってしまうのではないか…と、そんな思考ばかりが巡る。
…俺は…彼女にとっての“何”になれるのだろうか…。
こんな時に気の利いた言葉が見つからない、自身のコミュ障に腹が立った。
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渚(プロフ) - 妹系長女さん» 妹系長女さんコメントありがとうございます!ブリッチしてしまう程楽しんでいただけるとは光栄です!パート1の方にもコメントして下さりありがとうございました!励みになります! (2019年7月3日 12時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
妹系長女 - え、やっぱりこの小説マジで神ってるよね!そうだよね!だってこの小説読んでるとつい、ブリッチしてしまうんですもの...w (2019年7月2日 20時) (レス) id: 2d0849d162 (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - ゆっくりでいいささん» ゆっくりでいいささん、コメントありがとうございます!私も個人的にこのイラストが一番気に入っています! (2018年12月16日 19時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりでいいさ - 65話の一松の顔で大草原だったわ (2018年12月16日 16時) (レス) id: f5def87010 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - いつもイラストと一緒にお話も楽しみにしています!どっちも可愛いですね。一松のゲス顔もなんとも…。小話のリクエストで、スイカ割りとかスイカのお話みたいです(説明下手でごめんなさい)よろしくお願いします! (2018年1月10日 21時) (レス) id: 4940cabbbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渚 | 作成日時:2016年6月6日 21時