５６松 ページ26
「いつまで口開けてんの？埃入るよ」
「え…だって一松さん、何言って…」
「月なんて出てないって。空見て分かんない？」
「つ、月なら出てますよ！」
ほらあそこ！とAが指差した夜空の先には、
青白く輝く、大きな真ん丸い光。
「…蛍だよ」
「へ？」
「あれは蛍。満月じゃない」
「…いや、どう見ても」
「蛍」
「…っ」
「だから帰れない」
「……」
「家に帰ろ。腹減ったし、手羽先食べたい」
戸惑うAを放置して、ニャンコを抱えて先に池を後にする。
後ろは振り向かない。
少しの間は俺の足音だけが聞こえていたけど、暫くすると後ろからもう一つの足音が聞こえてた。
距離は離れているけど、ちゃんとついて来てるみたいだ。
「(……無理矢理過ぎたかな…)」
誰がどう見たって、あれは月。
それぐらい俺だって認識してる。
あれは分かりやすい遠回しの拒絶だ。
帰りたくないっていう拒絶。
一生この世界にいたいって訳じゃない。
一旦保留にするだけ。
今日を逃したら二度と帰れないって訳じゃないんだから大丈夫だろ、多分。
帰る為の条件は満月なんだから、機会はまだいくらでもあるはずだ。
あ、後で向こうに帰らないって手紙送んないと…面倒くせ。
「(…Aは、どう思ってんのかな…)」
俺がこっちに残ることを迷惑に思っていないだろうか…。
さっきのニャンコの言葉からするとそれはない…、とは思いたいけど…。
出来たら、帰りたくないっていう俺の意図を読み取ってほしいな、なんて…。
とにかく今はまだ帰れない。
理由はなんとなくで、ちょっとフワッとしてるけど。
「(なんとなく、このままは嫌だから…)」
…なんて言ったら、アンタはどんな風に思うかな？
そんな事を考えながら、いろんな光が混じった月光を背にして、真っ黒に染まった獣道をのそのそ歩いて帰ったのだった。
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渚(プロフ) - 妹系長女さん» 妹系長女さんコメントありがとうございます！ブリッチしてしまう程楽しんでいただけるとは光栄です！パート1の方にもコメントして下さりありがとうございました！励みになります！ (2019年7月3日 12時) (
レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
妹系長女 - え、やっぱりこの小説マジで神ってるよね！そうだよね！だってこの小説読んでるとつい、ブリッチしてしまうんですもの...w (2019年7月2日 20時) (レス) id: 2d0849d162 (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - ゆっくりでいいささん» ゆっくりでいいささん、コメントありがとうございます！私も個人的にこのイラストが一番気に入っています！ (2018年12月16日 19時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりでいいさ - ６５話の一松の顔で大草原だったわ (2018年12月16日 16時) (レス) id: f5def87010 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - いつもイラストと一緒にお話も楽しみにしています！どっちも可愛いですね。一松のゲス顔もなんとも…。小話のリクエストで、スイカ割りとかスイカのお話みたいです（説明下手でごめんなさい）よろしくお願いします！ (2018年1月10日 21時) (レス) id: 4940cabbbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：渚 | 作成日時：2016年6月6日 21時
