54松 ページ24
「……」
「……一松さん…、いつからここに?」
「………」
「……一松さん?」
「…………」
「…………」
見つかったもんはしょうがないと溜息を漏らして、茂みから出て彼女の真正面に立つ。
Aは何事も無かったかのような振る舞いを見せているけど、何も言わない俺に対して段々と不安の表情を募らせていっているみたいだ。
さっきまでの陰りは無く、相手を気遣う顔。
自分は二の次で、相手の事を最優先に考えている。
「(…アンタはそうやって、ずっと押し込んできたのか…)」
他人に自分の感情を見せる事が出来ずに抑え込んで、只々溜め込むだけ。
自分を守る為、自分が何かをすることで、他者に被害が及ぶのを防ぐために、押し殺す。
「……一松さん、あの――」
「蛍」
「え?」
「蛍、綺麗だね」
「そ、そうですね?」
首を傾げて何故か疑問形で返すAを横目に、余裕ぶってる振りしてぼんやりと蛍の光に目をやる。
Aが俺の言葉を待っているのは分かってる。分かってるのに口だけが小さく動いて、声にすることができない。
元々コミュ障だからっていうのもあるのかもしれないが、こんな時に気の聞いた言葉一つ言えない自分に腹が立って仕方がなくて…。
せめて、彼女への謝罪だけでもと、声を絞り出した。
「……あの、さ…」
「はい?」
「………さっきは…、ごめん…」
「…?…どうして謝るんですか?」
「……A…、怒ってるでしょ…」
「え?いやなんでそうなるんですか?」
「だって…、俺とニャンコの会話、聞いたじゃん」
「?、??」
Aは言ってる事が分からないって顔をして疑問符を浮かべてるみたいだ。
いや、そんな顔をしたいのは俺の方なんだけど。
「私あの時、一松さんの荷物整理が終わったから居間に戻ろうとして、一松さんの焦ったような声が聞こえたので、どうしたのかなと思って声を掛けたんです。そしたら急に夕方になってて、一松さんもいなくなってて、ちょっと状況的に訳わかんなかったりしましたけど、少なくとも私は怒ってないですよ?」
「……え、俺等の会話聞いてなかったの?」
「はい。何か聞いちゃいけない事だったんですか?」
「い、いやいや、聞いてないんだったらいい、忘れて」
「?」
どうやら俺の完全な取り越し苦労だったらしい。
良かった、聞かれてなくて。
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渚(プロフ) - 妹系長女さん» 妹系長女さんコメントありがとうございます!ブリッチしてしまう程楽しんでいただけるとは光栄です!パート1の方にもコメントして下さりありがとうございました!励みになります! (2019年7月3日 12時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
妹系長女 - え、やっぱりこの小説マジで神ってるよね!そうだよね!だってこの小説読んでるとつい、ブリッチしてしまうんですもの...w (2019年7月2日 20時) (レス) id: 2d0849d162 (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - ゆっくりでいいささん» ゆっくりでいいささん、コメントありがとうございます!私も個人的にこのイラストが一番気に入っています! (2018年12月16日 19時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりでいいさ - 65話の一松の顔で大草原だったわ (2018年12月16日 16時) (レス) id: f5def87010 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - いつもイラストと一緒にお話も楽しみにしています!どっちも可愛いですね。一松のゲス顔もなんとも…。小話のリクエストで、スイカ割りとかスイカのお話みたいです(説明下手でごめんなさい)よろしくお願いします! (2018年1月10日 21時) (レス) id: 4940cabbbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渚 | 作成日時:2016年6月6日 21時