53松 ページ23
光ったり消えたりしながらふよふよと浮かぶ蛍。
都会では滅多に見られないその仄かな光はなんだか幻想的に見えて、物珍しさからもあり思わず目で追ってしまう。
蛍は人間に対して警戒心が無いのか、暫く俺の頭の上を旋回した後ゆっくりと池の方へと飛んで行ってしまった。
すげぇ、リアルで初めて見たかも…。
よく見てみると、ポツリポツリと同じ光が池の上を飛んでいて、徐々にその数を増やしていってる。
やっぱ蛍って綺麗な水のとこに集まるんだ…。
Aも池に蛍が集まって来てることに気付いたようで、俯きがちだった顔を上げて感激の声を漏らしていた。
風が吹くと、数を増やした蛍が彼女を照らして空に舞い上がるのと同時に、彼女の髪を靡かせた。
「(……あぁ……綺麗だ……)」
何度目かの、胸の中だけの言葉。
この言葉が言えたなら、どれだけ気が晴れるだろう…。思うがままに口にできたらと思うけど結局無理だってわかってる。
ただこうして…、Aを見ていることしかできない…。
「……一松さん…」
「――っ」
不意に呼ばれたその声に、心臓が一つ大きく脈打つ。
Aは未だ空に舞い上がる蛍達を見上げていて、その横顔は、心ここにあらずって感じだ。
《誰にも気づかれねぇでフワッと消えちまうんじゃないかって思えてねぇ》
不意に思い出した言葉。
以前近所の婆さんが語っていたこの言葉が、妙にしっくりきて…。
Aがこのまま蛍の光と一緒に、風に吹かれて何処かに行ってしまいそうな…、そんな錯覚さえ覚えてしまいそうで…。
だから、無意識だった。
「…………えっ……、一松…さん…?」
「…」
俺はいつの間にか茂みから体をはみ出してしまっていたようで、Aは俺の存在に気が付いたらしく驚きの目をこちらに向けていた。
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渚(プロフ) - 妹系長女さん» 妹系長女さんコメントありがとうございます!ブリッチしてしまう程楽しんでいただけるとは光栄です!パート1の方にもコメントして下さりありがとうございました!励みになります! (2019年7月3日 12時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
妹系長女 - え、やっぱりこの小説マジで神ってるよね!そうだよね!だってこの小説読んでるとつい、ブリッチしてしまうんですもの...w (2019年7月2日 20時) (レス) id: 2d0849d162 (このIDを非表示/違反報告)
渚(プロフ) - ゆっくりでいいささん» ゆっくりでいいささん、コメントありがとうございます!私も個人的にこのイラストが一番気に入っています! (2018年12月16日 19時) (レス) id: b81e412f98 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりでいいさ - 65話の一松の顔で大草原だったわ (2018年12月16日 16時) (レス) id: f5def87010 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - いつもイラストと一緒にお話も楽しみにしています!どっちも可愛いですね。一松のゲス顔もなんとも…。小話のリクエストで、スイカ割りとかスイカのお話みたいです(説明下手でごめんなさい)よろしくお願いします! (2018年1月10日 21時) (レス) id: 4940cabbbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渚 | 作成日時:2016年6月6日 21時