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「あれ、Aいるの？」
玄関の開く音と共に、チョロ松の声が聞こえた。
まさに今考えてたことじゃん。
なんて言ってる余裕もなく。
「二階にいるの？」と言う声と近づく足音にせかされるように、私は急いでスカートを履いてブラウスのボタンをとめた。
乱れていた髪を結んだと同時に、チョロ松がふすまを開けた。
「お、お邪魔してマス」
チョロ松の目を見たら見透かされそうで、真っすぐには見えない。
「髪……ボサボサだよ」
そう言われて、心臓が飛び出しそうになる。
「い，急いで来たからかなー。ちょっと直して来……る」
はあっ、とつかれるため息。
「ボタンも掛け違えてるし」
「ちが、これはっ、その……」
ああ，ダメだ。きっとチョロ松は帰ってくるときにおそ松とすれ違っている。言い逃れなんてできっこない。
いつものチョロ松なら、慌ててしまうような状況なのに今日に限って冷静だ。
「だ，誰にも……おそ松にも、言わないで……っ」
「当たり前でしょ。てか知ってたし。」
その言葉に、私は凍り付いた。
「ああ、ごめん。僕しか気づいてないと思う。多分ね」
「そう……」
「あのさ、僕が口出しすることじゃないのはわかってるけど」
チョロ松が、私の目を覗き込んだ。
「おそ松兄さんのこと、好きなんでしょ？Aは、それでいいの？」
「わからない」
普通なら、「よくない」って言うべきなんだろう。もしくは割り切って、「これでいい」って。
でも、わからなかった。
これでいいと言い切るには切なすぎる関係で、それでも、これ以上なんて望めるだろうか。
「ごめんね、空気悪くして。……何かあったら言ってよ。聞くから」
チョロ松が申し訳なさそうに眉を下げる。
「私こそ、ごめんね。ありがと」
私が掛け違えたボタンを直し終えたころ、おそ松が帰ってきた。
努めて普通に、私とチョロ松は振る舞う。
これで、このままでいい。
自分に言い聞かせるように、私はそう唱えた。
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作者名：真由香 | 作成日時：2018年2月24日 16時
