八振目「やっと出逢えた」舞鶴side ページ10
もう、いつまで持つか分からない。
でも、この人は、この人だけは後生守り抜きたい、その願いだけが俺を生かしていた。
最早粉々に砕け跡形も無い俺の本体、俺を打った主はそんな状態の俺でも、大切に大切に、御守りとして常に自らの傍に置いてくれていた。
俺はそれが嬉しくて仕方無かった、形を失って尚ここまで大切にしてくれる主はいるだろうか、普通は折れた刀なんてもうただの鉄クズ。
溶かされてはい終了、が普通なんだ。
俺もそれを覚悟していた。
あの男が俺の手入れをしている主の元へ押しかけてきた時、自分に意思があるのに、この身を振るえない、主を傷付けるそいつを斬れない、それがどうしようもなく悔しかった。
そして俺は見逃さなかった、一通りの刀を折って、男が懐に仕舞うその刀の存在、そして男がその刀を握り主に近付いていく。
あぁ、駄目だ、このままでは主が、俺は無我夢中で自らのありったけの神力を本体に纏わせる。
作戦は上手くいった、男は主から俺へ標的を変え、俺を折った。
身が無くとも主を守れた、短刀としての役割を十二分に果たせた、そう、思ったのに、主は俺が折れたのを自分のせいだと責めた。
違う、違うんだ、主、やめてくれ、笑ってくれよ、俺は、俺は…主にそんな悲しい顔をさせるつもりだったんじゃない…!
主は俺の破片を幾度と無く指を切りながら拾い集め小袋に入れ、その小袋を優しく握り締めて、「絶対に、絶対に直してみせるからね、待っててね…」そう、呟いた。
俺は主の為に待ち続けた、消え行く命をあの手この手で繋ぎ止め、主の為に生き長らえ続けた。
けれどそれももう限界に等しく、視界は閉ざされ、闇に沈み、音も、主の声も聞こえなくなってしまっていた。
あぁ、すまない、主、どうやら、俺はもうここで消えてしまうらしい。
届きもしない謝罪の言葉を零し、諦め、意識までもが闇に呑まれる、その寸での所だった
ゆらゆらと落ちていく感覚が止まった
もう、視界は閉ざされた筈なのに、俺の目線の先には、真っ黒な空間とは正反対に、真っ白な光が指していた
俺はその光に手を伸ばす。
すると、ずっと、ずっと聞きたかった主の声が聞こえてきた。
ーおいでませ、我が愛刀、「黒鳥 舞鶴」ー
…あぁ、やっと、やっと逢える、主。
待っていた甲斐があった、ずっと言いたかった、有難う、の言葉をやっとこの身で伝えられる。
さぁ、行こうか、愛する、ただ一人の俺の主の元へ…___
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作者名:蝉時雨 | 作成日時:2019年9月15日 15時