episode９５ ページ5
「……ご、ご指名ありがとうございます」
突然現れた彼、朔間凛月は私を指名した。
サングラスも掛けず、マスクもなし。
素顔をさらけ出した彼が来店したことで、当然スタッフ含め店はパニックに陥った。
──あれってKnightsの凛月くんだよね？
──生で見るととんでもないイケメンだな……
──朔間凛月来るとか聞いてないけどこれ何、プライベート来店！？
もちろん私も例に漏れず大いに動揺していて、尚且つ指名なんてされたものだから、これが何かドッキリ番組の撮影なのだと言い聞かせて席に着いた。
「そんなにビクビクしないでよ、俺だってみんなと同じ"ご主人様"だよ〜」
ほらほら深呼吸、と微笑む凛月くん。
Aちゃんと出会っていなければ、名前すら覚えていなかっただろう彼は、私にしか聞こえないような微かな声量でこう言った。
「ありがとね。……さくらのこと」
「──え」
驚いてまじまじと彼を見る。
彼は「お礼のご帰宅じゃ」と言ってメニューを眺め始めた。
さくら……私が知っているその名前はたった1人。
それも、大切な友達を傷付けた"彼女"だけだ。
特段感謝されるようなことはした覚えがなく首を傾げると、凛月くんが「まあその話はあとでするとして、これお願い」とオリジナルの炭酸ジュースを指差した。
腑に落ちない気持ちを抱えながら注文をキッチンに伝える。
「あ、りんちゃんやっと来た〜」
ジュースを運び席に戻ると、凛月くんが手をひらひらさせた。
1口飲むと「想像よりずっと美味しい」と、嬉しい感想をくれた。
「単刀直入に言うと、俺全部見てたんだよね」
「全部……？」
そうそう全部、と凛月くん。
またもや声を潜めて続けた。
「セッちゃんとここのメイドがくっついたことも、君との言い合いからのさくらの改心までね」
「！！」
あの日の出来事だ。
今でも鮮明に覚えている。
にしてもだいぶ前の話だし、目立っていたとはいえ1ファンの行動をわざわざ気にしているのも何だかおかしな感じがする。
きっと、本題はここからだ。
「まあ本題はここからなんだけどね」
やっぱりそうだ。
しかしながらAちゃんが大騒ぎするほどの"アイドル様"が、わざわざ来店してまで私に会いに来た理由。
それはもっとスケールの大きな話なはずだ。
「君のお姉さんが最近よくうちの事務所に来るんだけど、何か知ってる？」
「……姉がですか！？」
まさかの言葉に私は驚きを隠せずに、ついつい大きな声を出してしまった。
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作者名：咲愛 | 作成日時：2023年10月7日 18時
