〇≠無の証明 Ⅰ (ページ3)

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「ここに来た理由知ってる？」
大野係長が挨拶もなしに突然聞いてきた。

「前の女性の方が辞められた、と聞きました」
「うん。呪われたから辞めたの」

みんなが私をジーッと見た。
松本さんが電話を切って、私に目を止める。

「……え？」
「呪われたから、辞めたの」
同じことを繰り返す。

「呪われた」
「うん」

じー。
じー。
じーーーー。

コホン。
試されてるんだ、これ。
ちゃんと答えなきゃ。

「私は、目に見えるものが全てだとは思いません。例えば私は結婚したことがないのでラブラブだった旦那さんが豹変していきなり横柄になる姿をみたことはありません」

「豹変するのは嫁のほうでしょ」
二宮さんが口を挟んでくる。

とりあえず無視。
「子供を産めば女は強くなると言います。小さな蛾で悲鳴をあげていた友人が、子供の近くにいたムカデの頭を無表情で潰していた姿を見て、それが真実だと実感しました」
「……母は強し……？」
櫻井さんが目を丸くした。

「他の人は知っていても私は知らないことも山ほどあります。世の中知らないことだらけです。むしろ知らないことの方が多いのだと思います」
「うん」
「残念ながら私はまだ『地獄に落ちろ』と念じるレベルでしか呪ったり呪われたりしたことはありません」
「呪われてるの？」
相葉さんが心配そうに私を見た。

「ただし係長は呪術師としては才能がなかったのでしょう、私はまだピンピンしております、あれ？ここは地獄ですか？」
「……かも」
「ではここに来るのは私ではなく係長殿が来るべきでしたね！係長との呪い対決に負けましたからね私は」

「なんか思ってたよりスゲー毒舌の奴が来た」
松本さんが、なんだか楽しそうにこっちを見てる。

「つまり！呪われるほど嫌われるということはたやすく想像できますが、生活に害が及ぶほどの呪いはまだ経験がなく！」
「……」
「それを知って見て、これは呪いでしか考えられないと判断した場合、それを信じて『呪われた』と言いましょう、判断材料が足りない」
「……うんうん」
「で？どのように辞められたのかもう一度お尋ねします、退職理由は？」

「ケッコン」
大野さんがふにゃーって笑った。
「血痕……血？」
「お嫁さんになったの。人生の墓場」
「……それは……永遠の呪いですね」
「翔くん、味方ができたね」

大野さんがそう言って、櫻井さんが、やった！と言った。

「味方？」
「超リアリスト」

みんながフフ、と笑った。