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「お待たせ致しました、
お部屋におられないと思ったら、こちらにいらしたのですか、坊ちゃん」
「……」
クスッ
『まだ坊ちゃん?』
「うるさいよ、A」
「失礼致します、
本日はフォートナム&メイスン社のロイヤルブレンドをご用意させて頂きました」
コポコポと紅茶が注がれると同時に芳醇な香りが漂ってくる
「会うのは久しぶりだね」
『…そうかしら? この前も会った気がするわ』
「Aの〈この前〉は1年前も含まれるのかな?」
『……』
ヴィンセントにそう言われてAが自分の記憶を手繰り寄せると、確かに最後に会ったのは去年の社交期〈シーズン〉だったような気がする
貴族の淑女であればシーズンともなると、我先にと新しいドレスを注文し、誰よりも多くのパーティーに出席しようとするものだが、
スペンサー家のAは違った
Aの社交嫌いは貴族の間では有名な話だったのだ
「たまにはパーティーに顔を出したら?」
『先週出たばかりよ』
「フラニーに聞いたよ、
でも、壁の花だったって? 勿体無い」
『誰にも話し掛けられなかったわ、
つまり、わたしはいてもいなくても一緒という事だと思うの』
「そうかな?」
ヴィンセントは唇に右手を添えて微笑む
彼女は気付いていないだけなのだ、
Aは知らないのだ、自分の魅力を――
いまの貴族連中の間で話題に上がるのは昨今の政治や経済の話ではなく、
〈スペンサー家の令嬢を誰が妻に娶るか〉
それだけだ
まぁ、話題にするだけ無駄だが
Aの夫になるのは自分だと決まっている
「君はもう少し、自分の事を知った方がいいと思うよ」
『…わたしの話はもう終わりにしましょう、
学校生活はどう?今年が最終学年でしょう?」
「話を逸らすのは良くない、A」
『…っ…』
「スペンサー公爵から聞いてるだろう、婚約の話を」
『ヴィンセント、
…あなた、本気じゃないのでしょう?』
「と言うと?」
『婚約の話は親同士が決めたことよ』
「そうだね」
『こんな言い方は良くないと思うけど、クローディア様はもう亡くなられているし、この婚約にこだわる必要はないと思うの』
「…続けて」
『頭の良いあなたなら分かってるでしょう、この婚約の意味を。
ファントムハイヴとスペンサー、互いの利の為に子どもを結び付けようとしただけよ』
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作者名:water lily | 作成日時:2019年1月20日 23時