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「──つまり、毎日が寂しい!」
コンビニで坂田さんと鉢合わせてから、早数分。
私はというと、飲みの誘いに「酒奢ってくれんなら」という意地汚い条件付きでOKを出してくれた彼と共に近くの公園にてチューハイを嗜んでいるところであった。
(いやまぁ、意地汚い云々は私が言えたことじゃないけど。)
坂田さんを飲みに誘ったのも、孤独感を紛らわせるためだし。意地汚い同士だから相殺されたらいいな、と思う。
一方、最初こそ「飲み屋じゃねーじゃん」だ「日本酒を飲ませろ」だ文句を垂れていた彼も、今は諦めたのか面倒くさそうに返事をしてくれていて。
「その歳で独り身ならしゃーねーだろ。男作れ男」
「坂田さんにだけは言われたくない」
「バカヤロー俺は寂しくねーからいいんだよ、人気者だし」
「……あぁ、いつも追いかけられてるもんね。家賃徴収」
「そっちじゃねェ」
ならばどっちだという話である。正解が見当たらない、失格。
公園の街灯の下、ベンチの上という風情の欠片もない状況の中、ぽつぽつ交わされるやりとりはひどく他愛がない。他愛ないのに、どうしてかいつまでもそうしていたいと思った。……これも、夏の夜のせいなのだろうか。
チューハイ缶の水滴が右手へ伝っていくのを感じつつ、何の気なしに空を見上げる。──すると。
「あ」
──ちょうどその時、花が咲いた。ドォンと、どこまでも儚く、美しく消えてゆくそれらに、遠くの会場からどよめきの声が上がったのが分かる。
夜空から金色の花弁が消えないうちに、また次の花が咲いて、萎れて、咲いて──いやはや。
「にあわないねえ、私たち」
溢れていたのはそんな言葉だった。彩られる夜空を見つめながら「きれい」そう呟くと、「そうでもねーだろ」なんて平たく発された声。
「何言ってんの坂田さん、アレ見えてる?ほら、あんなに綺麗で──」
「似合わなくも、ねーだろ」
「……え?」
思わず彼の方を見遣れば、その目が花ではなく私を捉えているのだから驚いた。「どういうこと、それ」多少の動揺を隠しつつ尋ねてみると。
「似合ってんじゃねェの、中々」
「……、バカじゃないの」
なんだか平静を保てそうになくて、私はチューハイを飲み干した。きっと多分絶対に酔いのせいで赤い顔を、誤魔化すように空を見上げ。
(──訂正、やっぱり、)
夜、去って欲しくないかも。降って湧いたそんな欲に、私は唯々戸惑ってしまうのだった。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時