六十 ページ15
「買い物行くぞ、準備しろ。」
「お夕飯の買い出しなら1人で大丈夫ですよ。」
「お前の生活用品買いに行くのな。いつまでもぱっつぁん家から服かりてらんねーだろ。」
「...でも私お金が。」
「これ見ろ。」
自慢げな顔の前で封筒をひらひらさせる坂田さん。放り投げられたそれを受け取れば、中にはそこそこな額が収まっていた。
「おとり捜査協力としての前金。」
「...おとり?」
「お前を狙ってるやつおびき出してとっ捕まえよう大作戦。」
「はぁ。でもいいんですか?坂田さんが受け取った報酬じゃ。」
「実際囮になんのはお前だろ。それに貰うぶんはしっかり貰ってやっから心配すんな。」
初の給料日まではまだ日付がある。バイト着も含めて買い物には行くべきかもしれない。
スクーターの鍵を何度も宙に投げる坂田さんは、廊下から「早くしろ」と叫んでいる。
「はーい!」
簡単な支度を済ませてあとを追えば、既にスクーターにまたがった坂田さんがヘルメットを差し出してくる。
顎の下に留め具を回していれば、
「俺ァ元ゴールデンタイムの主人公だから。これ、必須な。」
なんて言ってにっと笑った。
その発言自体がゴールデンタイム的には宜しくない気もするけれど、大人しく車体の後部にまたがった私は、目の前の背中に手を伸ばす。
「ちゃんと捕まっとけよ。スクーターだからって舐めてっと痛いめみんぞ。」
「わかりました。」
人の間を縫うようにして走り、車と肩を並べる私達は、ほほに冷たい風を感じていた。運転しながらこちらに振り返り「どーよ。」と無邪気に口角を上げる坂田さん。ゴーグル越しに見える瞳を見ていると、町の雑音さえ心地いいと感じてしまう。
「とってもにぎやかな街ですね!風が気持ちよくて、」
次々と移り変わる景色は、微動だにしない牢獄のコンクリートとは比べ物にならないほど美しかった。人が息づくそこは、確かに生きていて―――高杉さんといつか訪れてみたいと思った。
観光なんて柄じゃないかもしれないけれど、雑踏の中を二人で散策してみたい。まぎれないように手をつないで歩いてみたい。
白い着物をしっかりと握りしめながら、空の向こうの彼を思った。
徐々に確立していく地球での生活環境。
慣れ親しもうと努力する一方で、まだあの頃の気持ちを忘れたくないと無意識にあがく私も、確かに存在していた。
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★九尾★(プロフ) - 面白いです!めっちゃ楽しんで読ませてもらってます!更新頑張ってください! (2018年10月18日 23時) (レス) id: 0ceb133c1e (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - 鷹さん» お読み頂きありがとうございます!他ジャンルの方からもそのように言っていただけてとても嬉しいです!今後もよろしくおねがいします! (2017年10月5日 7時) (レス) id: 0cde9ce314 (このIDを非表示/違反報告)
鷹(プロフ) - 普段銀魂の作品をあまり読まない者ですが…とても面白くて一気に読んでしまいました!今後も楽しみにしております! (2017年8月31日 0時) (レス) id: fec64aa2a0 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - あやかさん» ご感想いただけてうれしいです!コメントありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします!! (2017年8月5日 12時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» ほんとうですか...!!ありがとうございます!この後、徐々に明らかにしていきたいなと思っておりますので。今後もお付き合いいただければと思います! (2017年8月5日 12時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月22日 2時