第1夜 森の奥の少女 ページ2
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とある国の広大な森に、一人の男が訪れていた。
「...」
男は煙草を吸いながら神秘的な森を悠々と歩く。
生い茂る木々の隙間から木漏れ日が差し込み咲き誇る花々を優しく照らす。
草花の香りを運ぶ湿った風。
動物たちの甲高く、時に低い鳴き声が響き渡る。
空を映す泉が幾つもの波紋を作り出す。
地面を踏みしめる音でさえ心地よく聞こえる。
「...ここはお前の森か?」
ふと、そんな事を放った男の目の前には一匹の狼。
白銀の毛並みを揺らし鈍色の瞳に男を映す。
男の言葉に反応したのか、スッと立ち上がり後ろを向く。
一度男を振り返るとゆっくりと歩きだした。
「ついて来いってか...」
その言葉どおり、男は予想以上に大きな狼の後を追う。
歩くたびに白銀の毛並みが光を受け美しく輝く。
男は僅かにそれに目を奪われた。
どれほど歩いただろうか。
気付けば男は森の奥へと足を踏み入れていた。
しかし狼の歩みは止まらない。
歩いて歩いて歩き続け、ふと、狼が止まった。
「ホォ...これはまた、大層なもんがあったもんだな」
男が見上げた先、そこには周りの木々とは比べ物にならないほどの大樹。
樹齢何百年...いや、何千年かと思わせるほどのそれ。
狼はそこの根元に伏せていた。
男がゆっくりと歩み寄る。
「こいつは...」
大きな狼に包まれるようにいたのは一人の赤ん坊。
まだ生まれたばかりだろうか。
真っ白な布に包まれ眠るその子。
しかし、男が驚いたのはそれとは別。
「イノセンスか...?」
そう。
赤ん坊の横に置かれたのは光り輝く物体、イノセンスと呼ばれる神の結晶。
「...!」
イノセンスに触れようとした男の手が一瞬止まる。
男が拾い上げたのは一枚の紙。
二つに折られたそれを開く。
「......。
お前が守っててくれたのか、恩に着る」
男の手が狼の白銀を撫でる。
それを静かに受け入れるのを見てから、男はゆっくりと赤ん坊を抱き上げた。
男は赤ん坊と、傍らのイノセンス、そして...一枚の紙を抱え静かに森を去った。
男を見送ったのは森の守り神と...森の長。
「帰って、きたんだな...」
黒いコートに仕舞いこまれた紙に書かれていたのは...。
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作者名:SHINKAI | 作成日時:2019年3月31日 13時