検索窓
今日:13 hit、昨日:1 hit、合計:156,033 hit

第四話:悪夢の前の平穏 4 ページ6

「千寿郎が席を立ってるが、ここで、暇させて貰う。邪魔したな」

「もう、帰るのか」


驚いた様子の杏寿郎を見ながら、藤色の風呂敷に包まれた桐箱を持つ。


「あぁ、もう用事は終わったからな。今日は任務もあるから、ここで帰る。
 千寿郎と師範に、よろしく頼む」

「そうか、気を付けろよ」

「お前もな」


玄関に並べていた草履を履いて、そのまま玄関を出る。
外に出ると、そこには綺麗に剪定された、夏の庭があった。


「今日は暑いな、杏寿郎もそう思うだろう」


急に黙り込んだ杏寿郎を見て、小首を傾げる。


「どうした、杏寿郎」

「お前にとって、『今日は暑いのか』」


その言葉の意味がよく分からず、目を瞬かせる。


「夏なんだから、暑いに決まってるだろ」

「そう、か……」


先ほどの明るい様子とは打って変わって、杏寿郎は、難しい顔をしたまま、俯いてしまった。
いつもとは違う様子に、具合が悪いんじゃないかと心配になる。


「杏寿郎、具合でも」


「悪いんじゃないか」、そう言おうとして、そのまま何も言えなくなった。


いつの間にか、自分の体は杏寿郎の体に抱きすくめられていた。



「きょ、杏寿郎さーん!!? ここ、外……!」


「死ぬなよ、絶対に死ぬな」



耳元で響いた声色に、一瞬、何も考えられなくなる。



「日輪、次の任務が終わったら、必ずここに帰って来い。必ずだ」



杏寿郎が、少しだけ腕の力を強める。
その言葉に、自分は口元を緩ませ、杏寿郎の胸板を軽く押して、距離を取った。



「心配すんな、そう簡単にやられたりはしないだろ」

「…………!」



いつ死ぬかなんて、分からない仕事。

けれど、自分は生きる為に、この仕事に就くことを決めた。


両親が、喉を掻き切られて死んだからでも、兄の体が半分以上、喰われていたからでもない。


自分が、『生きる為に』この仕事に就きたいと思ったからだ。



「お前の階級は『柱』で、私は『乙』だけどな。それでも、そう簡単に死んだりはしない」


だから……



「信じてくれ。必ず、お前の元に生きて帰る」

「……あぁ、分かった」



「すまなかった」と謝りながら、杏寿郎は、一つ後ろに下がった。


「じゃあ、行ってくる。お前も死ぬなよ」


杏寿郎に背を向けて、門の方へと向かう。
この日の夜に起こることなど、知りもせずに。

第五話:鬼退治→←第三話:悪夢の前の平穏 3



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (429 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
817人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , 黒死牟   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

神亜(プロフ) - とても面白です! 日輪ちゃんはどうなってしまうのか...とても気になります! 更新、無理しないで頑張ってください 応援してます 続けぇぇ (2020年5月30日 9時) (レス) id: 7ae973559f (このIDを非表示/違反報告)
- 続いてええええ! (2020年4月14日 23時) (レス) id: 584f216f44 (このIDを非表示/違反報告)
青鈴 - とてもとても好きです!!私が頭のなかで思い描いてた話と近いので見ていて楽しいです! (2019年9月13日 16時) (レス) id: 681f1f52c6 (このIDを非表示/違反報告)
大福もやし - 今後の展開が、気になります (2019年9月9日 3時) (レス) id: 46531bb7b7 (このIDを非表示/違反報告)
玲音チャン - めっちゃ好きですぅぅぅぅぅぅぅうぅぅうう!!!!!!更新頑張って下さい!応援してます! (2019年8月27日 21時) (レス) id: b000323d2b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:露草 | 作成日時:2019年7月11日 3時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。