Episode173 ページ24
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ネイバーを、殺せないと思ったあの時。
私の体は、そいつにぎゅっと抱きしめられて。そいつの背中に刺さったネイバーの爪は、私の体まで貫通した。そして二人のトリオン体が壊れて、この部屋のベッドに本物の体が戻ってくる。
「………何やってんの、出水」
私がトリオン兵に殺されそうになった瞬間、飛び出してきたのは出水公平だった。ただの防衛任務で二人でベイルアウトなんて、おかしい。別にあのままトリオン兵に私がやられていたとしても、生身の私が死ぬわけではないのに。なのにあの時、トリオン兵の爪が振りかざされる寸前の出水の顔が頭から離れなかった。まるで、今私が引き裂かれればもう二度と会えないかとでも思っているかのような鬼気迫る表情で、それでいて何かを恐れているような顔。
「……どういうことだよ」
「………ッ!」
出水がそれだけ言って、ひどく居づらくなった私はそのまま隊室を飛び出した。「おい!」と叫ぶ出水の声を無視した。……分かっている、言われなくても。出水が何を言いたいかなんて。
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「、おっ、と」
「!」
基地の廊下をがむしゃらに駆けていると、人にぶつかった。訊き慣れた声の人。今日は二宮隊が午後から任務なんだっけ。回らない頭で適当なことを思い浮かべながらも、早く逃げたい気持ちが募っていった。こういうとき、なんだかんだ一番会いたくない人かもしれない。
「そんなに慌ててどうしたの?」
声の主は犬飼先輩。私は何も言わずに、ただ肩で息をした。
「……亜桜ちゃん、おれと戦らない?」
「は、………?」
何を言っているのだ、この人は。任務時間中に私が本部にいる時点で、そして持ち前の察しの良さがあれば、ベイルアウトしたことくらい勘づいてるだろう。そしてA級一位太刀川のメンバーである私がベイルアウトするという事態が、どれほどおかしなことなのかも。ばっと顔を上げると、後ろに鳩原先輩がいるのが見えた。
「トリオン体がまだ、」
「模擬戦ならできるでしょ?」
トリオン体は、一度壊れると修復に時間がかかる。だからベイルアウトしてすぐはランク戦ができない。しかし模擬戦の仮装戦闘モードなら、トリオン無限ルールだから物理的には可能。私はひたすらにこの先輩がどういう意図でそのセリフを投げかけてきたのか定安いたが、同じくらいに自分自身の考えていることもわからなかった。頭の中がいろんな感情で混濁していて、一体どれが今感じているものなのか判別できない。
「ーーわかりました」
何を思ったのか、私はそれを承諾した。
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亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います!!すごく嬉しいです……!こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました! (2022年5月29日 1時) (レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして!作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます! (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます!お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります!見落としておりました;;なおしてきます! (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、(親友)の場所が(旧友)になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください! (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは!つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております! (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜桜 | 作成日時:2019年2月10日 13時